地方公務員と自己破産について
 
(質問)
 自己破産に関し、次の点について教示願いたい。
 @ 自己破産をした場合、地方公務員となることができないか。
 A 町職員が自己破産した場合、そのことを理由に地方公務員法上の処分を行うことができるか。
(回答)
1 自己破産について
(1) 破産について
 破産とは、債務者がその債務を完済できない場合に、債権者に対して債務者の財産を公平に配分することを目的として行われる法的な手続をいいます(法律学小辞典(有斐閣)940p)。
 破産には、債権者からの申立てによるものと債務者からの申立てによるものとがあり(破産法第18条)、後者の場合が一般的に「自己破産」といわれているものです。
 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、破産手続の開始を決定し(同法第30条第1項)、当該決定がされている債務者は破産者とされます(同法第2条第4項)。
 破産者は、破産手続開始の決定を受けると、その効果として、裁判所の許可を得ないとその居住地を離れることができず(同法第37条)、また、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属し(同法第78条)、他方、破産者が破産手続開始後に破産財団に属する財産に関してした法律行為は、破産手続との関係において効力を主張できません(同法第47条)。
 以上のとおり、破産者は破産法上の権利制限を受けますが、民事上の人的な能力(法律行為能力)に関しては、基本的に制限を受けまん。
 しかし、次に述べるとおり、公法及び私法上において、資格取得に関する制限がなされている場合があります。
(2) 公法上の制限について
 弁護士、公認会計士、弁理士、人事院人事官等については、それぞれの所管法において、資格取得に際しての欠格事由として「破産者で(あって)復権を得ない者(もの)」との規定があり(弁護士法第6条第5号、公認会計士法第4条第3号、弁理士法第8条第10号、国家公務員法第5条第3項第1号等)、破産者であって復権をしていない者は、このような職に付くことができないとされています。
 他方、一般的な国家公務員や地方公務員については、破産者に関するこのような資格制限はありません。
 なお、ここで「復権」とは、破産者に加えられる各種の資格、権利について制限を消滅させ、破産者の本来の地位を回復する制度をいい(法第255条及び第256条)、破産法においては、上記各法令における資格制限にあるような「懲戒主義」はとっていないところですが、このような資格制限を一定の条件のもとに解除させる機能が必要となることから、破産法で規定されているものです。
 具体的には、免責許可の決定(同法第252条)が確定したときなどに復権するものとされ(免責主義・第255条第1項)、さらに、復権の効果については「人の資格に関する法令の定めるところによる」とされています(同条第2項)。
(3) 私法上の制限について
 民法上の制限として、破産者は代理人(第111条)、後見人(第847条)、後見監督人(第852条)、保佐人(第876条の2第2項)、保佐監督人(第876条の3第2項)、遺言執行者(第1009条)となることができません。
 また、商法上の制限として、「破産手続開始ノ決定ヲ受ケ復権セザル者」は株式会社の取締役(第254条の2第2号)、監査役(第280条第1項)等になることができません。
2 事案の検討について
(1) 質問@について
 1の(2)でも述べたとおり、破産者となることは、そのことだけをもって、地方公務員としての身分の得失に影響を与えるものではありません(地方公務員法(以下「地公法」という。)第16条及び第28条第4項参照)。
(2) 質問Aについて
 質問にある処分とは、分限処分(地公法第28条第1項)及び懲戒処分(同法第29条)を指すものと思われますが、(1)でも述べたとおり、破産手続開始の決定を受けたというだけでは、公務員の資格を失うということにはなりませんし、処分を受けるということも一般的には想定できないところです。
 しかしながら、自己破産に至った原因とか態様には様々なものがあるため、事案によっては、公務員の職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となる行為に該当するような場合もありうることから、信用失墜行為(地公法第33条)に基づく懲戒処分、あるいは公務能率維持の観点からの分限処分も全く否定されるものではないと考えます(同趣旨・自治実務セミナー37巻8号(良書普及会)18・19p)。
 この場合、「分限処分の可否については、分限処分は、道義的責任の追及を目的として行われる懲戒処分と異なり、公務能率の維持を目的としているものであり、破産によって公務の遂行に影響を及ぼすかどうかで判断される。懲戒処分の可否については、設問(注:上記セミナーにおける設問は「競馬に熱中するあまり借金がかさみ自己破産の申立てを行った職員に対し長は何らかの処分をすべきか」です。以下同様)の場合、『全体の奉仕者たるにふさわしくない非行』に当たるか否かが問題となるが、このような場合は地公法第33条の信用失墜行為の禁止にも触れると思われるので、信用失墜行為となるか否かを検討する必要がある。設問においては、自己破産に至った原因が特にギャンブルによるものであることから、公務員の職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となる行為に該当しないとはいえないため、信用失墜行為に基づく懲戒処分を受ける可能性も考えられる」とされています(上記「セミナー」18・19p)。
 いずれにしても、破産に至る原因・態様には様々なものがあり、また、破産法における破産手続自体も、前述のとおり懲戒を目的としてものではなく、債務者の経済的再起更正を目的としていることを考え合わせると、その処分については慎重に検討すべきものと考えます(同趣旨・上記「セミナー」18・19p)。
 なお、破産法は破産手続の迅速化、合理化等を目的として、平成16年5月に改正されていますが(17年1月施行)、この改正により、旧法で用いられていた「破産宣告」という言葉は、時代にそぐわないこともあり、前述した「破産手続の開始」という言葉に改められていますので、念のため申し添えます。