(質問) 自力執行権のない私法上の債権(公営住宅使用料、水道使用料及び学校給食費など)の消滅時効については、民法等の規定が適用になり、時効の援用が必要となることから、債務者が居所不明になった場合など、債権債務は消滅せず、債権管理上いろいろな問題が生じている。 一方、自力執行権のある公法上の債権(下水道使用料、保育所保育料など)は、地方自治法第236条第2項の規定により時効の援用を要しないこととなっている。 したがって、上述した私法上の債権で債務者が居所不明になった場合などについて、地方自治法第236条第2項と同様に時効の援用を要しないとするような条例制定は可能か御教示願いたい。 (回答) 1 金銭債権の消滅時効 (1) 地方自治法の規定 地方自治法(以下「自治法」という。)第236条は、金銭債権の消滅時効について規定し、同条第2項で「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利の時効による消滅については、法律に特別の定めがある場合を除くほか、時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。」と定めています。 (2) 時効の援用の解釈 地方公共団体の金銭債権・金銭債務については、「自治法第236条第2項の『法律に特別の定めがある場合』には民法が含まれるか否かの問題があり、従来は意見が分かれていましたが、最高裁昭和46年11月30日第三小法廷判決(民集25巻8号1389頁・判時653号84頁)によって『特別の定め』には民法も含まれるとし、地方公共団体を一方の当事者とする金銭債権について、私法上の債権の場合は当事者の援用を必要とするとの判断が示されました。 したがって、地方公共団体を一方の当事者とする金銭債権のうち時効の援用を要しないのは公法上の債権に限られ、私法上の債権には民法の規定が優先して適用されることから援用は必要となります。なお、時効の利益の放棄ができないものも公法上の債権に限られることになります」(Q&A地方公務員のための債権回収(ぎょうせい)2729p)と解しています。 2 権利の放棄 自治法第96条は、議決事件について規定し、同条第1項第10号で「法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか、権利を放棄すること。」と定めています。 この権利を放棄することとは、「地方公共団体の有する権利を放棄することであり、権利の『放棄』とは、権利者の意思行為により権利を消滅させることであるから、単に権利を行使しない場合は、ここにいう権利の放棄には含まれない。また、時効の完成等により権利が消滅する場合ももとより権利の放棄ではない(行政実例昭30.11.2)。『法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合』には個々の権利放棄について個別の議決を要しない。その例としては、地方税について条例の定めるところにより減免する場合(地方税法第323条、第367条等)、分担金、使用料、加入金及び手数料に関する条例で定めて減免する場合(自治法第228条第1項)、自治法及び自治令の規定による債権の免除(自治法第240条第3項、自治令第171条の7)、自治法の規定により議会の同意を得て行う職員賠償責任の免除(同法第243条の2第8項)等があり、その他条例で定める場合がある」(新版逐条地方自治法<第四次改訂版(学陽書房)337p)と解しています。 3 事案の検討 まず、自治法第236条第2項が適用される金銭債権の範囲は、上記1から、私法上の債権は含まれないとされていますので、私法上の債権は、時効完成後、時効の援用が必要ということになります。 次に、お尋ねの私法上の債権の時効の援用を要しないようにすることについては、上記2から、権利の放棄に当たるものと考えられます。 したがって、本事案の場合は、上記2から、条例に特別の定めがある場合を除くほかとされていますので、債権の放棄できる場合を規定した条例を制定することで対応することは可能と考えられます。 なお、債権管理は、債権管理に関する自治法、地方自治法施行令のみならず、各種行政法規、民商法の規定、条例その他の法令に則って債権を適正に管理することであり、債務が履行されない場合は督促を行い、督促後もなお履行されない場合は、債権の種類に応じて強制徴収又は強制執行などを行ったうえで、弁済する見込みがないと認められるときなど最後に債権の放棄となるものと考えますので、まず、債権の管理について総合的に規定している「江戸川区の私債権の管理に関する条例」や「浜松市債権管理条例」を参考に、債権回収対策を庁内で検討する必要があるものと考えます。 |