障害児保育所入所拒否国家賠償請求事件(埼玉県川越市)



○ 保育所入所拒否に伴う代替措置がなかったことを理由に賠償請求が認容された事例

 さいたま地裁 平成16年1月28日判決
 事件番号   平成12年(行ウ)第28号・平成13年(行ウ)第19号
 事件名    保育実施不可決定処分取消等請求事件・行政処分取消損害賠償請求事件
 出典     判例地方自治255号78ページ

【判示要旨】
  市長が障害児の保育所入所申請を集団保育になじまないとして拒否しながら、特段の代替的措置をとることなく、漫然祖父母や民間の保育室等の善意にまかせるまま放置したことは、児童福祉法第24条第1項ただし書に定める代替的保護義務違反に当たる。

【判決文】(抜粋)
第1 主文
1 被告は、原告ら各自に対し、それぞれ20万円(合計金60万円)及びこれに対する平成13年2月27日から支払済みに至るまで、年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その9を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

第2 事案の概要
1 事案の要旨
  原告甲野太郎(以下「原告太郎」という。)及び原告甲野春子(以下「原告春子」という。)は、川越市長に対し、その第2子であり、小頭症により重度障害を有している原告甲野花子(平成7年8月24日生、以下「原告花子」という。)が、原告ら両親とも日中勤務していたことから、保育に欠ける状態にあったため、児童福祉法第24条第1項に基づき、保育所の入所申請をしたが、川越市長は、平成12年2月25日及び平成13年2月27日付けで、保育所における集団保育が不可能であると判断したことを理由に、保育の実施不可決定をした(以下、個別には、「平成12年度処分」、「平成13年度処分」といい、包括して、「本件各処分」という。)。
  本件は、原告らが本件各処分及び本件各処分に至る過程においてなされた被告職員らの言動により、精神的苦痛を受けたとして、被告に対し、慰謝料として各200万円、弁護士費用各20万円及び民法所定年5分の割合による遅延損害金の国家賠償を求めている事案である。
  本件の主要な争点は、
(1) 児童が障害により保育所において集団保育できないことが、児童福祉法第24条第1項ただし書、第3項に定める「やむを得ない事由」となるか否か、
(2) 原告花子は、本件各処分当時、集団保育を受けることが可能な状態であったか否か、
(3) 被告職員らの違法行為の有無、
(4) 被告は児童福祉法第24条第1項ただし書の「その他の適切な保護」を加えたといえるか、である。
2 基本的事実関係(証拠等の摘示のない事実は、争いのない事実である。)
(1) 当事者(略)
(2) 本件各処分状況等(略)
(3) 通園状祝(略)
(4) 川越市保育所の保育体制について(略)
(5) 川越市の障害児保育について(略)
3 当事者の主張(略)

第3 当裁判所の判断
1 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(1) 川越市の保育状況について
ア 川越市の保育事業概要
(ア) 川越市の保育事業には、平成13年4月1日において、@通常保育、A延長保育、B障害児保育、C一時的保育、D障害児通園施設児童との交流保育、E子育支援がある。
(イ) 川越市の保育所においては、保育士1人に対して、零歳児(8か月以上)の場合には3名、1歳児の場合には4.5名、2歳児の場合には6名、3歳児の場合には15名、4歳児及び5歳児の場合には25名の児童が配置されていた。
  川越市の保育の実施状祝は、平成13年12月1日において、@保育所数は29園(公立20園、法人立9園)、A入所児重数は2421人(公立1684人、法人立737人)、B待機児童数は305人であった。
イ 川越市の障害児保育について
(ア) 川越市の障害児保育は、昭和50年4月、指定園において障害児保育を実施したことから始まり、その後、各園方式で障害児の受入れを行うなど事業の充実が図られ、昭和59年10月には、川越市統合保育事業実施要綱(本件要網。〔証拠略〕)が定められた。
  本件要綱は、児童福祉法第24条に該当し、かつ心身に障害がある児童(障害児)を保育所に入所させ、一般の児童のクラスに入って健常児とともにする保育の形態の保育(統合保育)を行うことにより、障害児及び健常児の成長と発達を促進させることを目的とし(同要綱第1条)、入所対象児童は、保育所において集団保育が可能であり、かつ障害の程度が軽度から中程度までのおおむね3歳以上の障害児で日々通園できるものとしている(同要綱第2条)。
  障害児が保育所入所を希望する際には、障害児の保護者は入所相談を受け(同要綱第5条第1項)、その際、保育所での観察保育を必要と認められた障害児については、保育所において観察保育が実施される(同要綱第5条第2項)。
  そして、障害児の入所措置の適正な実施を図るため、保育課長、管理係長、保育係長、各保育園長、あけぼの児童園長、措置担当者及び家庭児童相談員で構成される統合保育判定委員会が設置され(同要綱第6条第1項)、観察保育時の観察視点として、統合保育判定基準(〔証拠略〕)が定められた。
  統合保育判定基準の内容は、以下のとおりである。
「1 統合保育の対象児童
(1) 統合保育における障害児の対象児童は、集団保育が可能な児童であること。
(2) 児童の観察結果に基づき、統合保育判定委員会において健常児との集団保育が可能であると判断した児童を対象児童とする。
2 集団保育
(1) ここでいう集団保育とは、保育園の年齢別クラスにおける集団による保育をいう。
3 統合保育判定基準
  こどもの状態として
(1) 日常の身辺整理がある程度できること。
(2) 自力で移動ができること。
(3) 他のこどもの存在を認め、他のこどもとのかかわりをもてること。
@ 集団の中で、模倣ができ、場面展開についていけること。
A 集団に遅れても同じ行動がとれること。
B 集団の回りにいられること。
C 集団のリズムにのれること。
D 他のこどもとの交流ができること。
  園運営として
(4) 保育園は大きな集団であることから、集団全体の安全が確保できること。
(5) 保育園は保育計画に従ってクラス運営を行うため、健常児、障害児ともに発達の保障ができること。」
(イ) 川越市の統合保育事業の受入状況は、平成12年度において50人、平成13年度において59人であり、不可決定がなされた児童の数は、平成12年度は12人、平成13年度は14人であつた。
(2) 本件各処分状況等
  原告太郎及び原告春子は、平成10年度ないし平成13年度において、上記のとおり、いずれも鶴ヶ島市役所に勤務しており、原告花子は児童福祉法第24条第1項所定の保育に欠ける状態にあったとして、被告に対し、同法第24条第1項に基づき、原告花子の保育所入所申請をしたが、以下のとおり、川越市長は、いずれも保育の実施不可決定をした。
ア 平成10年度申請について
  原告太郎は、平成9年12月5日、被告に対し、平成10年度における原告花子の保育所入所申請をした。川越市長は、小室保育園において観察保育(平成9年11月5日、6日、20日開催)、その後に開催された統合保育判定委員会における検討の結果を踏まえて、平成10年2月25日付けで、保育園入園却下決定をした(〔証拠略〕)。
イ 平成11年度申請について
  原告太郎は、平成10年12月5日、被告に対し、平成11年度における原告花子の保育所入所を申請した。川越市長は、小室保育園で観察保育(平成10年11月17日ないし19日)、その後に開催された統合保育判定委員会における検討の結果を踏まえて、平成11年2月26日付けで、川越市統合保育事業実施要綱(本件要綱)第2条に定める対象児童に該当しないことを理由に、保育の実施不可決定をした(〔証拠略〕)。
ウ 平成12年度申請について
(ア) 原告太郎は、平成11年11月4日、被告に対し、平成12年度における原告花子の保育所入所申請(希望入所先を月吉町保育園(現今成保育園))をした。
(イ) 被告は、平成11年11月15日から17日にかけて、月吉町保育園において、原告花子外1名の児童を対象に観察保育を実施した。観察保育者は、園長5名、主任保育士5名、保育士4名、家庭児童相談員1名の合計15名であった。
  上記観察保育において、原告花子については、@首が据わっていない、A座位が保てない、B衣服の着脱については、全面介助が必要である、C給食による食事についても全面介助が必要である、Dコンタクトを使用していたが、子どもの動きを追視する様子がない、E)午前中に寝てしまうなど、同年齢の健常児との生活のリズムに差がある、Fリズム遊びで床に横にすると、床の冷たい感触が不快に感じたのか泣いた、G玩具を口でなめて確かめながら遊ぶが、他の子ども達とのやりとりはなかった、H大人に抱っこして音の出る玩具で、個別に関わると心地よさそうであったことが観察された。
(ウ) 被告は、平成12年1月26日及び31日、統合保育判定委員会を開催したが、同委員会においては、観察保育の結果を統合保育判定基準に照らしたところ、次の理由により、保育園での集団保育を実施することは極めて困難な状況にあり、統合保育を実施することはできないと判断した。
@ 川越市は年齢別の保育を実施していることから、原告花子の入園が想定されるのは4歳児のクラスであったが、このクラスでは、児童26名に対し1名の保育士が配置されている状況であるが、4歳児には動きが活発であり、その集団の大きさによる刺激も強く、原告花子の負担につながるおそれがある。
A そしゃくが弱く、療育が必要である。また、食事については、乳児食のように柔らかいものが必要となる。
B 保育園のような大きな集団での生活に馴染む状況ではなく、全ての生活面での全面介助を必要とされていることから、受入側としても原告花子の安全を完全に確保できるとは言い難い。また、原告花子の成長や発達を考えると、ひかり児童園での療育や訓練がまだ必要である。
(エ) 川越市長は、平成12年2月25日付けで、本件要綱第2条の規定により検討した結果、保育所における集団保育が不可能であると判断したことを理由に、保育実施不可決定(平成12年度処分)をした(〔証拠略〕)。
(オ) これに対し、原告両親は、平成12年4月26日、異議申立てをしたが、川越市長は、同年6月2日付けで、上記申立てを棄却した(〔証拠略〕)。
工 平成13年度申請について
(ア) 原告太郎は、平成12年12月10日、被告に対し、平成13年度における原告花子の保育所入所申請をした。
(イ) 被告は、平成12年11月10日、13日、14日にかけて、脇田新町保育園において、原告花子ほか1名の児童を対象とする観察保育を実施した。観察保育者は、園長7名、主任保育士7名、保育士11名、家庭児童相談員1名の合計26名であった。
  上記観察保育において、原告花子については、@首が据わりつつあるが、まだ、首が据わっている状況ではない、A座位が保てない、B衣服の着脱については、全面介助が必要である、C給食による食事についても全面介助が必要である、D子どもと手をつなぐことは、不快感を表す、E好きな歌には反応している、F好きな玩具に対しては、なめたりして楽しんでいた、G大勢の子ども達に対しては、不快な表情になる、G乳児(零歳児)が1対1で触れたり、乳児のゆったりとした生活には馴染んでいた、I保育士が「おばあちゃんと来たのね」の言葉をかけると、ニッコリしたことが観察された。前年度に比べ、@身体が成長し、顔の表情に成長が見られ、A午前中に眠ることはなく、B保育士の働きかけに、時々「アーアー」「ウーウー」と声を出すようになった。
(ウ) 被告は、平成13年1月26日、31日、統合保育判定委員会を開催したが、同委員会においては、前年に比べ若干の成長が見られたものの、当該結果を統合保育判定基準に照らしたところ、保育園での集団保青を実施することは極めて困難な状況にあり、次の理由により、前年と同様に統合保育を実施することはできないと判断した。
@ 原告花子の入園が想定されるのは5歳児クラスであるところ、5歳児クラスも児童26名に対して1名の保育士が配置されている状況であったが、5歳児は4歳児にも増して動きが活発であり、前年同様集団の大きさによる刺激が強く、原告花子の負担につながるおそれがある。
A 他の子どもとのふれあいが、まだ離しい状況にある。
B 原告花子の成長や発達を考えると、保育園での生活ではなく、ひかり児童園での療育や訓練がまだ必要である。
C 全ての生活面での全面介助を必要とし、保育園での生活の中では統合保育を実施しながら、原告花子の安全を確保することは難しい。
(エ) 川越市長は、平成13年2月27日付けで、本件要綱第2条の規定により検討した結果、保育所における集団保育が不可能であると判断し、保育実施不可決定(平成13年度処分)をした(〔証拠略〕)。
オ 平成13年度の追加申請について
  原告らは、平成13年4月12日、保育課に入園申請を提出したところ、同年7月16日、17日、23日、川越市立新宿保育園において、観察保育が実施され(〔証拠略〕)、川越市長は、同年10月15日付けで、本件要綱第2条の規定により検討した結果、保育所における集団保育が不可能であると判断したことを理由に、保育の実施不可決定をした(〔証拠略〕)。
(3) 原告花子の通園状況
ア 上記のとおり保育所入所申請をする一方、原告花子は、約2歳3月の平成9年11月から、肢体不自由児の療育施設であるひかり児童園に通園し、更に、平成10年4月から、ひかり児童園に加えて、民間の認可外家庭保育室であるすみれ保育室に通うようになった。
イ ひかり児童園について(〔証拠略〕〕
(ア) ひかり児童園は、川越市が、川越市心身障害児母子通園施設条例により設置し、運営する公的な肢体不自由児の療育施設であり、心身に障害のある児童に対し、作業療法上、理学療法士、保育士がかかわり、機能回復のための指導や訓練を実施し、併せて基本的生活習慣等を身につけさせるための保育を行っている。ひかり児童園は、昭和50年に川越市で開設され、昭和52年に心身障害児通園施設となり、機能回復及び集団生活のための指導と摂食指導、保育を行ってきたもので、次第に常勤の作業療法士、看護婦(士)、保母(保育士)、理学療法士が置かれ、非常勤で言語聴覚士が入れられるなど、体制の充実が図られている。
(イ) 平成12年度の体制は、正規保育士4名、正規作業療法士2名、正規理学療法士1名、臨時保育士6名、パート保育士1名、パート看護士1名、非常勤言語聴覚土2名、臨時作業員1名であった。児童は0〜2歳児クラス(ありんこグループ)が13名、3〜5歳児クラス(ひよこグループ、うきぎグルーブ)がそれぞれ5名で、合計23名であった。
ウ すみれ保育室について(〔証拠略〕)
  すみれ保育室は、昭和57年9月、川越市の保育室指定を受け、開設した、いわゆる認可外の家庭保育室である。すみれ保育室では、川越市の公立保育園において受け入れられない、産休明けの生後8か月未満の子どもや、公立保育園が定員を上回る関係で受け入れられない子どもを受け入れている。
工 原告花子は、平成10年4月から、すみれ保育室で、週4日(月曜日、火曜日、木曜日、金曜日)、午前9時から午後3時30分まで保育を受けた。原告花子の保育においては、1対1の保育とされていた。ひかり児童園の登園日は、月曜日、水曜日、木曜日が母子登園であったところ、原告花子は、月曜日、木曜日は、すみれ保育室から担当保育者とともにひかり児童圃に通園し、水曜日は、原告花子の祖母(原告太郎の母)が、原告花子をひかり児童園に連れて行き、ひかり児童園が休みのときは保育室で一日保育をした。
オ 平成11年度から、ひかり児童園での母子分離保育(概ね3歳以上の子供で母親以外の人と遊んだり、食事、排泄、着脱等につき個々の発達に応じ、きめ細かい保育をする中で、基本的生活習慣の自立への援助と祉会性を育て、適正就学につなげていくことを目的としている。〔証拠略〕)が、月曜日、火曜日、水曜日、金曜日の週4回、午前9時45分から午後2時45分となり、木曜日は午前9時45分から午後1時45分まで母子登園)、その後午後5時まで、すみれ保育室で保育を受けた。
カ 平成12年度、平成13年度は、ひかり児童園での母子分離保育が週5日、午前10時から午後3時となり、3時以降は、すみれ保育室で保育を受けた。
キ 本件各処分当時の原告花子の生活状祝をまとめると、概ね次のとおりである(〔証拠略〕)。
  午前7時頃   両親が自宅から数q離れた父の祖父母宅に預ける。
  同9時30分頃 祖父母が車でひかり児童園まで送る。
  午後3時頃   ひかり児童園の車ですみれ保育室の近くのバス停まで送り、すみれ保育室の保育担当者が
             迎えて、以後午後5時まですみれ保育室で過ごす。
  午後5時     祖父母が迎えて両親の勤務先から帰るまで祖父母宅で過ごす。
ク 原告花子に係るすみれ保育室に対する委託金の支給状況等
  川越市では、「川越市家庭保育室要綱」(〔証拠略〕)を定め、生後8週間から3歳末満の児童に係る保育に関し、いわゆる待機児童の解消策として、いわゆる無認可保育室に対し、委託費として月額1万7500円を支給していた(同時に障害児の場合は県から障害児保育委託費として月額4万2900円が保育室に支給された。そこで原告花子が3歳未満の平成10年度までは、すみれ保育室に対しても、川越市から月額1万7500円、県から4万2900円の合計6万400円が支給されていた。
  しかし、平成11年4月1日以降は、原告花子が3歳未満の要件から外れ、市の委託対象児童から外れることとなったことを理由に、すみれ保育室に対して市からの委託費は支払われなくなり、同時に県からの障害児委託費も支払われなくなった。
  なお、公立保育所が障害児保育を行った場合は、国や県から1児童当たり合計月額7万4620円を下回らない補助金が交付されている。
2 以上の認定事実を前提として、各争点について検討する。
(1) 争点(1)について
ア 原告らは、本件各申請当時、原告花子は保育に欠けると認められる児童であったことから、被告は、原告花子の保育実施義務を負うところ、児童が障害により保育所において集団保育できないという事情は、児童福祉法第24条第1項ただし書や第3項の「やむを得ない事由」とはならない旨主張する。
イ この点、被告は、児童福祉法第24条は、障害児保育を除外していると主張するが、明白な根拠はなく、採用できない。むしろ、同条の対象児童には、健常児、障害児に関わりなく児童一般が含まれるというべきである。
  そして、「保育に欠ける」状況は本来客観的に存在するものであるところ、前記認定の原告両親の勤務状況その他家族状況に照らせば、原告花子は児童福祉法第24条第1項の「保育に欠ける」児童であったというべきてあるから、被告には、特段の事情がない限り、保育所において保育しなければならない義務が課せられていたというべきである。
  しかしながら、児童福祉法第24条第1項ただし書は、「ただし、付近に保育所がない等やむを得ない事由があるときは、その他の適切な保護をしなければならない。」としてやむを得ない事由があるときは保育所入所以外の保護を行うことを認めているところ、この「やむを得ない事由」の中には、付近に保育所がない、すでに保育所に定員一杯の児童が入所しているとき等の物理的、定員的障害の場合のほか、児童の年齢、性質、体力、障害の程度等から慎重に判断した結果、市町村の保育所が実施している集団保育の方法によっては適切な保育が不可能と判断される場合も含まれると解される。
  すなわち、市町村は、限られた人員、施設と予算の範囲で保育事務を合理的、能率的に遂行する観点から、大半の市町村では年齢別のクラス分けによる集団保育の方法により保育を行うこととしていると推定されるところ、このような年齢別クラス分けによる集団保育の方法は、保育義務を連行する保育園の側からだけでなく、保育を受ける児童の精神的身体的発達の観点等からも合理性、相当性がないということはできず、限られた人員、予算の範囲内でいかなる方法により児童を保育するかについては、市町村の合理的な裁量に委ねられている部分が多いというべきである。そして、こうした状況下において、地域の保育所全体を通じての物的・人的条件、能力をもってしても申込にかかる児童を集団保育の観点から適切に受け入れ得ないと判断されるときは、当該市町村が保育園の人所拒否をしたとしても、その判断は児童福祉法第24条第1項ただし書の「やむを得ない事由」に該当するというべきである。
  原告らは、障害児は、健常児に比して「保育に欠ける」程度が高いというべきであるから、健常児に優先して保育所に入所させる必要性があるにもかかわらず、障害児について集団保育に適法かどうかを第1に判断するという取扱いをすることは不合理な差別であるとか、厚生労働省は、児童福祉法に基づく選考については年齢別の定員とか部屋ごとの定員は想定していないと説明しており、被告の方針は厚生労働省の説明にも反するなど主張するが、こうした原告ら主張を考慮しても前記判断を左右するものではない.
  そうすると、この点の原告らの主張は採用できない。
(2) 争点(2)について
ア 次に上記のとおり、保育所の入所を集団保育可能か否かで判断することは適法であるとしても、原告花子が、本件各処分当時、集団保育が可能であったか否かが問題となる。
  その前提として、念頭においている集団保育の意義が問題となるところ、市町村としては、通常の人的・物的設備を備えた保育所における保育を念頭に置いた上、当該児童が保育所における保育に耐えうるかを判断すれば足り、保育所において保育士を加配して保育するか否か等の検討は、市町村の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当である.
  ところで、前記認定事実によると、原告花子は、本件処分当時、座位が保てず、首が据わらず、四肢体幹機能障害により、自力での移動が困難な状態であり、他の児童とのコミュニケーショシもなかなかとりにくい状況にあって、少なくとも、保育上を原告花子のために、1人配置しなければ、施設入所することも不可能であったこと、保育所に入所する乳児、幼児の行動が、常に予測可能な範囲にとどまるものではなく、原告花子を集団保育の場に日常置くことは安全確保の面からも懸念されたことが認められる。そうすると、被告が、このようなことから原告花子の保育所における集団保育は不可能であると判断したことを不合理と評価することはできないというべきである。
イ 原告らは、集団保育の可能性の有無について、入所を求める児童を受け入れた場合に、可能な保育体制をもってしては、当該児童の生命に危険が及ぶか、他の人所児童の安全を確保できない場合に限り、保育が困難な事情にあたるとするが、集団保育の適・不適の判断において児童の安全は特に慎重に判断される必要があることは明らかであり、原告らの主張のように限定的に考えるべき根拠はないから、原告らの上記主張は採用できない。
  また、原告らは、日々通所できれば、一応集団保育は可能であると考えるべきであるとするが、文言上も、集団保育が可能か否かの要件と日々通所できるという要件とは別個独立のものであることは明らかであり、通所できても、集団保育できないことがあり得ることは十分に想定できることからすれば、原告らの上記主張も採用できない。
ウ 原告らは、本件要綱及び統合保育判定基準が違法・無効であることから、本性各処分も違法・無効である旨主張するが、その違法・無効事由は、いずれも、障害児であることが入所許否の理由となり得ないことを前提とするものであるが、上記のとおり、そのように解することはできない。また、原告らは、本件要綱は厚生労働省の指針に反する旨の主張をするが、厚生労働省の指針は内部基準に過ぎず、違法の問題が生じるものではないことに加え、そもそも厚生労働省の指針においても、集団保育が可能か否かを判断基準としているのであるから、本件要網が厚生労働省の指針に反するものでもないことは明らかである。
工 原告らは、被告が住民から保育の申込があったときにはこれに応じなければならず、適正な保育の実施が困難な場合などやむを得ない場合に限って公正な手続にしたがって選考することができるのであるから、保育不可決定をなした場合には、市民に対してその理由を具体的に明らかにしなければならないところ、本件不可決定については、合理的な根拠が示されていないと主張するが、本件では、川越市長は、原告花子が本件要綱第2条にいう集団保育が可能でないと判断したことから本件処分に及んだと示しており、理由として十分であると認められるから、原告らの主張を採用することはできない。
(3) 争点(3)について
ア 小高保育課長の行為について
  原告らは、小高保育課長は、原告ら保護者がなした保育所入所を受け入れるよう求めた要請等に際してした発言等を違法とする旨の主張をするが、弁論の全趣旨によれば、小高保育課長の原告ら保護者とのやりとり、鶴ヶ島市への障害児保育に関する電話照会などは、いずれも社会的に許容範囲のものと認められ、本件全証拠によるもこれが原告らに対する不法行為を構成するとは認めがたい。
イ 平成10年10月17日の観察保育について
  原告らは、上記観察保育において、保育士が、適切な保育、指導をしなかった旨の主張をするが、これを認めるに足りる証拠はない。なお、観察保育の性質上、観察の対象となる児童にとって日頃親しんでいる好ましい環境を常に与えなければならないものではないと判断される。したがって、原告らの主張を採用することはできない。
ウ 原告らは、川越市福祉課職員は、原告らが本件処分に対して異議申立てをしたところ、平成12年4月下旬に原告らが勤務する鶴ヶ島市役所に電話をかけ、問い合わせたとするが、これを認めるに足りる証拠はない。
工 原告らは、ひかり児童園園長の言動を違法とするが、そのような言動があったことを認めるに足りないし、仮に原告ら主張のような言動があったとしても、違法と評価するに足りる具体的な言動に関する主張はない。そこでこの点の原告ら主張も採用できない。
(4) 争点(4)について
ア 児童福祉法第24条第1項は、本文において、「市町村は、・・・・・児童の保育に欠けるところがある場合において、保護者から申込みがあったときは、それらの児童を保育所において保育しなければならない」とし、ただし書において「付近に保育所がない等やむを得ない事由があるときは、その他の適切な保護をしなければならない。」としているところ、原告らは、被告は原告花子を保育所に受入不可と判断した以上、児童福祉法第24条第1項ただし書によりその他の適切な保護を行うべき配慮義務があるが、被告はその義務を果たしていないと主張するので、以下判断する。
イ 「保育所は、保護者の労働、疾病等のため必要な保護養育を受けられない児童を、年齢を問わずあずかり、保護者に代わって保護養育にあたる児童の福祉を目的とする施設であって、たんに幼児教育を行う施設ではない。したがって、保育所に入所することは、保育に欠ける児童の権利ともいうべきものである。」(児童福祉法規研究会編・最新児童福祉法(等)の解説・295頁)。すなわち、保育所は、父母がともに昼間労働することを常態とする会社員等の俸給生活者であったり、疾病にかかったりしているため、児童の養育、監護ができない場合に、保護者に代わって児童を保育することを目的とするもので、共働き家庭等にとってはなくてはならない施設であり、その人所要件は両親の経済的事情には関わらず、近年は夫婦共働き家庭の一般化や核家族化の進行により、その社会的役割は極めて大きい。
  したがって、保育に欠ける児童について「付近に保育所がない等やむを得ない事由」があるときは、市町村がそれらの児童を保育所に入所させて保育を実施しなくとも違法ではないが、その場合それに代替して「その他適切な保護」を加えなかった場合には、かかる市町村の不作為は法第24条第1項ただし書に反し違法となると認められる。
  そして、どのような措置が法第24条第1項ただし書にいう「その他適切な保護」に当たるかについては、当該児童のおかれた状況、被告の保育所における保育不可の事由、保護者以外の近親者や家庭内保育(いわゆる「保育ママ」)又は一定の質が確保された認可外保育施設へのあっせん、情報提供、補助の有無等諸般の事情を考慮して決しなければならないが、いずれにせよ市町村としては、保育に欠ける児童でありながら保育所の入所を拒否した場合には、漫然これを放置することは許されず、保育所に入所することができなかった児童についてそれなりの保育状況の改善に資する措置を講じなければならないと解せられる。
  ことに、保育に欠ける児童でありながら当該児童が障害を有し、集団保育になじまないことを理由に保育所入所を拒絶するときは、当該児重やその保護者にとっては、健常児童であれば受け得た保育サービスの提供を障害があることを理由に受けられないことになり、いわば二重のハンディ、不利益をもたらすものであるから、そのような判断は慎重に行われるべきであるし、保育の実施に関する第一次的責任者である市町村としては、そのような理由により保育所入所を拒否するときは可能な限りの代替的措置により、保育所に人所することができなかった障害児やその保護者の不利益をカバーするよう努めるべき責務があると解せられる。
ウ これを本件についてみるに、〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告花子(平成7年8月24日生)は、生後1年は当時1年の期間であった育児休業取得をした母に育てられ、育児休業期間経過後しばらくは父の祖父母方で保育された。
  原告花子は2歳3月となった平成9年秋口から機能回復訓練施設であるひかり児童園に通うようになった。原告花子は、ひかり児童園の職員などから民間の家庭保育室であるすみれ保育室を紹介され、平成10年4月からすみれ保育室での保育を受けることとなった。すみれ保育室では、原告花子を1対1保育で臨むこととし、保育士を1人増員した。そして、平成10年度中は、すみれ保育室の職員がひかり児童園の送り迎えもした。平成11年4月から原告花子はひかり児童園の3歳児グループ(週4日、母子分離)となったことから、原告花子は、午前10時頃から午後3時頃までひかり児童園で過ごし、その後すみれ保育室で午後5時まで保育を受けた。
(イ) 原告太郎は、平成10年度から13年度にかけて、4度原告花子の保育所入所を申請したが、被告は、平成10年2月25日、同11年2月26日、同12年2月25日、同13年2月27目、いずれも集団保育になじまないこと等を理由に保育の実施不可決定をして、原告花子の保育所入所はかなわなかった。
  このようにして、原告花子は平成10年4月から卒園の平成14年3月までひかり児童園とすみれ保育室の双方で監護された。そして、平成11年4月以降平成14年3月卒園までの原告花子の生活パターンは主に次のようなものであった。
  午前7時頃   両親が自宅から数q離れた父の祖父母宅に預ける。
  同9時30分頃 祖父母が卓でひかり児童園まで送り、3時までそこで過ごす。
  午後3時頃   ひかり児童園の車ですみれ保育室の近くのバス停まで送られ、同保育室の保育士が迎えて
             午後5時まですみれ保育室で過ごす。
  午後5時     祖父母が迎えて両親の勤務先から帰るまで祖父母宅で過ごす。
(ウ) なお、すみれ保育室の保育料は、平成10、11年が月額5万円、同12、13年が月額5万1000円であった。川越市では、生後8か月から3歳未満の児童について無認可保育室で保育された場合は、委託費として月額1万7500円を支給しており、障害児保育の場合は同時に県から障害児保育委託費として月額4万2900円が保育室に支給されることとなっていた。そこで、原告花子が3歳未満保育として扱われた最初の平成10年4月から1年間は、すみれ保育室に対しても、川越市から月額1万7500円、県から4万2900円の合計6万400円支給された。しかし、平成11年4月1日以降は、原告花子が3歳未満の要件から外れ、市の委託対象児童から外れることとなったことを理由に、すみれ保育室に対して市からの委託費は支払われなくなり、同時に県からの障害児委託費も支払われなくなった。すみれ保育室としては、市等の委託費合計月額6万400円と原告花子の両親からの保育料月額5万円を合わせても増員分の保育士給料をまかなうには不十分であり、平成11年4月1日以降市等から委託費が支払われなくなって以降は、一層持ち出しが多くなったが、そのうち原告花子の公立保育所入所も実現するのではないかとの希望から、結局原告花子の受け入れを最後まで継続した。
工 判断
(ア) 以上によれば、公立保育所における保育の実施拒否を受けてからの原告花子の保育は、祖父母宅、ひかり児童園、認可外保育室であるすみれ保育室のローテーションによりようやく成り立っていたものであることが認められる。このうち、ひかり児童園は身体障害者のための機能回復施設であって、保育に欠ける児童の保育を目的とした施設ではなく、時間も週4ないし5日、午後3時までであり、職員の研修などによる月2回の休園や夏休み、冬休み、春休みの休園期間もあり、原告花子の保護に欠ける状態の改善のために事実上奉仕する部分もあるが、これをもって原告花子の保育に欠ける状態の十分な代替的措置とまでは評価することはできない。そして、被告は、平成10年度はともかく、平成11年4月1日以降は、原告花子が3歳未満の要件から外れたことを理由にすみれ保育室に対し委託費の支給をストップし、それ以降、原告花子の保育を担当した民間保育施設に対する援助・協力等(補助金の交付等を含む)原告花子の保育状況の改善に資するような特段の手立てを講じた形跡が全くない。このことは、被告が原告花子の保育について保育所における集団保育になじまないと拒否しておきながら、特段の代替的措置をとることなく、いわば漫然原告花子の祖父母やすみれ保育室等の善意にまかせるまま放置したと評価されてもやむを得ないものがある。そうすると、本件の場合、被告には、児童福祉法第24条第1項ただし書に定める代替的保護義務違反であったものといわざるを得ない。そして、本件の場合、すみれ保育室が被告からの委託金を受けていた平成10年以前とそれが打ち切られた平成11年以降でも原告らのすみれ保育室に対する保育料に大きな変動はないが、これはすみれ保育室の特段の配慮によるものであり、被告からすみれ保育室等に相応の協力、援助があれば、原告らの出費も少なくて済んだ可能性も十分あるし、被告の義務違反により、原告らは相応の精神的負担、負い目を感じたことは優に推認されるところであるから、被告は代替的保護義務違反に伴い生じた原告らの精神的損害に対し賠償する義務があるというべきである。
  (なお、原告らは、「適切な保護」として、主位的にひかり児童園における時間延長措置が可能であったのにそれを行わなかったことを違法とするが、ひかり児童園は身体障害者のための機能回復施設であって、保育に欠ける児童の保育を目的とした施設ではなく、施設の目的を異にしている以上、被告が諸般の事情から原告の時間延長の要望を受け入れなかったとしてもやむを得ず、そのこと自体を代替的保護義務違反の理由とすることはできない。)。
(イ) これに対して、被告は、すみれ保育室や鶴ヶ島市への管外委託の情報提供、紹介、あっせん、ひかり児童園の入園による機能回復訓練等を行っており、これらも「適切な保護」の一部であり、法第24条第1項ただし書違反はないと主張する。しかし、ひかり保育園は身体障害者のための機能回復施設であって、保育に欠ける児童の保育を目的とした施設ではなく、これをもって法第24条第1項ただし書の代替的措置に該当するとは直ちに認めがたいことは前記のとおりである。また、被告がすみれ保育室の紹介やあっせんを行ったことがあるとしても、それは平成10年春以前のことであり、証人乙山松夫の証言や原告春子の供述等によれば、被告の乙山保育課長が鶴ケ島市に障害児保育の状況について問い合わせたことがあったとしても、それは原告春子と乙山課長とのやりとりの中での鶴ヶ島市における障害児保育の可能性等に関する一般的な問い合わせであり、原告花子の管外委託保育の実現に向けての具体的な情報提供、あっせん等というものではなかったことが明らかであるから、上記のような被告の主張を考慮しても、前記判断を左右するに足りない。
(ウ) そして、被告の代替的保護義務違反の程度、内容、すみれ保育室と公立保育所の保育時間や保育料の差(前者は年間約60万円、後者は年間約20万円から25万円)、その他本件に顕われた諸般の事情を考慮すると、原告らに対する慰謝料としては、原告ら全体で弁護士料を含めて60万円(原告ら各自につき各20万円)の限度で認容するのが相当である(なお、遅延損害金の起算日は最後の保育の実施不可決定のあった平成13年2月27日からとするのが相当である。)。
3 結論
  よって、原告らの請求は、原告ら各自につき各20万円(合計60万円)の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから、これをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。