
顧問弁護士の目で見た町村行政@
「危険が伴う各種賃貸契約」
北海道町村会顧問弁護士 山根 喬
北海道町村会顧問弁護士 佐々木泉顕
「フロンティア180」秋季号・第7号より
| ケース1 最近、A町から次のような相談を受けました。 A氏(町の担当者) 「10年ほど前に、その当時は全く使用の可能性がなかった町はずれにある町有地を、町民の方(Bさん)がどうしても貸して欲しいと頼むので、町は、どうせ空いている土地だからということで、賃料も安目にして貸しましたが、近い将来この土地の近くに公共施設を建設する予定であり、町としてはそろそろこの土地を返してもらいたいと思っているのですが、どのような手続きをすれば良いのでしょうか」 弁護士 「賃貸借契約の契約期間は何年だったのでしょうか。また土地の使用日的は何だったのでしょうか」 A氏 「ヤマベの養殖池と釣堀営業のために使用するということで土地を貸しました。確か期間は1年間ということだったと思いますが、その後毎年更新されております」 弁護士 「土地の中に建物は建っていないのですか」 A氏 「釣堀の事務室などとして使用している、かなり大きな建物が建っております」 弁護士 「その建物は誰が建てたのですか」 A氏 「Bさんです。確か契約してから1年後に建てたと思います」 弁護士 「賃貸借契約書の中で、建物を建てることが許されるようになっているのでしょうか」 A氏 「…(沈黙)…」 以上のようなやり取りの後、私はAさんの持参した賃貸借契約書を見てみました。その契約書の中には、土地を目的外の用途に供してはならないとの内容の規定がありましたが、その規定の次に「但し、甲(町)の承諾がある場合はこの限りではない」との規定があったのです。そこで私はAさんに対して「Bさんが建物を建てるときに、町に対して承諾をして欲しいと楯んできたことはありませんか」という質問をしたところ、Aさんは申し訳なさそうに「実は、土地賃貸借が始まった翌年に私の前任者が建物を建てても良いと承諾してしまったようなのです。その後も町は建物の存在について異議を述べたことはないようであり、私もすっかり困り果ててしまっているのです」と答えました。 結局この場合には、町の承諾があったときから本件土地賃貸借契約は建物使用を目的とする賃貸借契約に変更され、借地法(現在は借地借家法)が適用になってしまいます。 そして、本件の場合には9年前に町が承諾したときに契約期間を定めていないので、借地法によって賃貸借契約期間は承諾したときから30年間となってしまいますので、今年から21年後に賃貸借期間が満了することになり、その時に、町が土地使用の具体的必要性があるなどの正当な理由がある場合にのみBさんに対して明け渡しを請求できることになってしまうのです (但し、公共事業に必要な場合に土地収用法による強制収容は可能ですが、本件の場合は公共事業に必要な場合ではありませんでした)。 このように、土地を貸す場合には、土地の使用日的が建物所有を目的とするかどうかで、借地権の保護の内容が大きく変わってしまいますので十分注意する必要があります。また、当初の使用日的が建物所有ではない場合であっても、A町のように契約の途中から建物所有目的の賃貸借契約に変更したものと認定されてしまう危険性があることにも十分注意すべきです。A町の場合には、賃貸借契約書の中に「いかなる場合であっても本件土地上に建物を建てることは認めない。この条項に違反した場合には催告なしに契約を解除することができる」との条項を設けて、絶対に建物を建てさせるべきではなかったと思います。 そのようにしておけば、1年毎の期間満了時に契約の更新を拒絶して、明け渡しを求めることができたのです。 ケース2 では、土地ではなく建物を貸す場合にはどのような問題点があるのでしょうか。 最近C町で次のような事件が発生しました。 C町自慢の完成したばかりの町民ホールの大ホールの観客席には、大コンサートなどの場合にステージの使用の必要性に応じて、ステージ近くの観客席を下げてステージとして使用できる最新式の装置(移動席)がありました。 ところが、C町はこの移動席を下げたままにしておいたため、固定席との間に2メートル以上の高低差が生じてしまい、たまたま大ホールに入り込んだDさんが、移動席が普通の状態であり下がっているとは思わずに歩き回ったために、固定席から移動席に転落して大怪我をしてしまったのです。 町民ホールには、大ホールのほかに幾つもの部屋があり、これらの小部屋をC町では各種サークルに対して無償で使用させており、Dさんはあるサークルのリーダーであり、普段から町民ホールを使用していて大ホールについてもよく知っていたので、他のサークルのメンバーを案内して、町民ホールの管理人の許可を得ることもなく大ホールに入り込んだのですが、大ホールは消灯状態であり真っ暗だったために、前述のとおり移動席が下がった状態であったことに気付かずに転落して怪我をしたのです。 C町は、Dさんに大ホールを貸したわけではなく町民ホールの中の小部屋を貸したに過ぎません。従ってDさんが大ホールに入ったことは全くC町とは無関係であり、勝手に大ホールに入り込んだDさんの怪我についてC町が責任を負う理由は全くないようにも思えます。 しかし、C町は町民ホールの大ホール以外の施設を町民の方に貸して利用させていたのですから、利用者が大ホールに入り込む可能性が全くないとまではいえません。 従って、C町は利用者が無断で大ホールに入り込むことがないように大ホールの入口を施錠しておくべきだったのです。 また、入り込んだ人間が誤って固定席から移動席に転落することがないように柵などの設備を設置する義務があったのであり、以上の義務を怠ったことについて、公の営造物である町民ホールの設置及び管理に瑕疵があったことになり、国家賠償法第2条の責任を免れません。 あるいは、町民ホールの利用者、特に各種サークルの代表者との間で使用貸借契約または賃貸借契約を締結し、その契約書の中で、万が一管理人の許可なく大ホールに入って事故が発生した場合には、町は全く責任を負わないとの条項を設けておくことも必要だったと思います。 以上のとおり、A町もC町も好意で町民に土地や建物を貸したにもかかわらず、結局、A町の場合には町有地をなかなか返してもらえなくなり、C町の場合には損害賠償責任まで負うことになってしまいました。 従って、町村が所有または管理する土地や建物を第三者に貸す場合には、その結果いかなる事態や責任が生じうるのか、契約内容を十分検討してから貸すことが必要と考えます。 「町のものなのだからいつでも返してもらえるだろう」とか「無償で利用させでいるのだから、事故が起きても町には責任はない」などという安易な考えは厳に慎むべきです。 |