|
1 住民訴訟について
前回は、住民訴訟と密接な関連を有する住民監査請求と会計職員の賠償責任に係る改正内容について触れましたが、今回は主題である住民訴訟制度の改正と、その周辺課題について述べます。
(1) 住民訴訟の構造
住民訴訟には、@執行機関に対する差止請求(一号)、A行政処分たる会計行為の取消し又は無効確認請求(二号)、B執行機関に対する怠る事実の違法確認請求(三号)、C職員個人に対する損害賠償請求若しくは不当利得返還請求又は当該会計行為又は怠る事実の相手方に対する損害賠償請求ほか(四号)の四つの訴訟類型があります(法第242条の2第1項)。
この中で、最も利用される頻度が高かったのが、Cの四号請求といわれる訴訟類型で、これは地方公共団体の住民が、地方公共団体に代位して違法な財務会計行為により地方公共団体が被った損害を補填させるべく、当該会計行為に関して決裁権限を有していた職員個人や当該会計行為の相手方(契約の相手方等)を相手取り、賠償請求や不当利得返還請求を行う仕組みのものでした。
ここで注意しなければならないのは、被告となるのは個人としての長又は職員であって、地方公共団体における執行機関そのものではないということです。
したがって、地方公共団体としての説明責任が十分に果たされないのではないかといった問題や、あるいは、住民監査請求を経れば誰でも長や個人を被告とすることができたことから、これら個人は応訴に伴う各種負担(弁護士費用等)を担わざるを得ず、住民訴訟の被告となることを懸念して、事なかれ主義に陥り、積極的な政策展開が控えられ、士気が低下するなどの弊害が指摘されていたところです。
(2) 新四号請求の構造
このような指摘を受けて、改正法では、(1)のの@ABの訴訟類型については基本的に従前どおりとし、Cの四号請求については全面的な改正を行いました。
すなわち、新たな四号請求は、次の二段階構造となります。
ア 第一段階
住民が当該地方公共団体の執行機関又は職員(「執行機関」とは財務会計行為の最高責任者(長)を、「職員」とは長から権限の委任を受けた職員を指す)を被告として、「違法な財務会計行為に関して決裁権限を有していた職員個人又は当該会計行為の相手方に対して、損害賠償請求又は不当利得返還請求をすること」を求める訴訟を提起することとなります。
なお、決裁権限等を有していた職員が、前回述べた法第243条の2第3項に規定する賠償命令の対象となる職員である場合には、当該賠償の命令をすることを求める訴訟となります。
この場合、執行機関又は職員は個人として被告となるのではなく、行政処分の取消訴訟における場合と同様に違法な財務会計行為に係る是正権限を有する行政庁として被告となるものであって、応訴費用も当然、当該地方公共団体が負担します。
そして、この訴訟で執行機関又は職員が敗訴した場合、地方公共団体は判決が確定した日から60日以内の日を期限として、当該職員又はその相手方に対し、地方公共団体が被った損害について、支払いを請求し、あるいは賠償を命じ、当該職員等が請求等に応じれば、それで終結します。
イ 第二段階
しかし、地方公共団体が請求等を行っても、当該職員又はその相手方が期限内にこれに応じなかった場合は、地方公共団体は当該職員又はその相手方を被告として、損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とした訴訟を提起することになります。
この訴訟で、地方公共団体が勝訴すれば地方公共団体が被ったとされる損害が補填されることになり、敗訴すれば当該職員又はその相手方は損害補填義務を負わないこととなり、いずれにしても終結します。
(3) 弁護士費用の請求
改正前の四号請求では、長や職員が個人として被告となったため、その弁護士費用をどのように扱うかが問題となり、平成6年の法改正により、長や職員が勝訴した場合には、議会の議決を経てその弁護士報酬額の範囲内で相当と認められる額を地方公共団体が負担することができることとされました(第242条の2第8項)。
しかし、今回の法改正で長や職員が個人そして被告となることはなくなったため、その弁護士費用をどうするかといった問題はなくなり、当該条項は削除されました。
2 今後の課題
(1) 住民訴訟制度のあり方
住民訴訟制度は、違法な財務会計行為を是正し、地方公共団体の損害を補填させることを目的とするものですが、地方公共団体の行政活動と財務会計行為は表裏一体の関係にあり、ほとんどの行政活動は間接的ではあるにしろ、住民訴訟を通して司法のチェックを受けることになります。
他方、地方公共団体の行政活動は、選挙や議会、地方自治法上の各種請求制度、監査委員による行政監査等により監視、コントロールされており、地方自治法という一つの枠組みの中で見た場合、住民訴訟制度とこれら制度との間に、均衡や整合性が保たれているのか検証の余地があるものと考えます。
(2) 監査制度のあり方
地方自治体の監査制度は、地方自治体の職員が監査委員の補助職員として発令されており、このような内部監査制度には各種の弊害があることが指摘されています。
平成7年以降、全国各地で問題となった不正経理事件を契機として、全国を幾つかのブロックに分け、地方自治体職員以外の者により構成される「外部監査機構」を設立して、地方自治体の監査に当たらせるという検討がなされましたが、現実には、地方自治体と外部監査人との契約による外部監査契約制度が実現したに過ぎません。町村の総務課は、議会事務局、監査委員事務局、選挙管理委員会事務局等を兼掌しており、その負担を軽減する意味でも抜本的な監査制度の改革に向けた検討を今後とも強く望むところです。
(3) 国の会計制度と住民訴訟
最後になりますが、地方自治体の財務会計行為については住民監査請求や住民訴訟制度が定立されているにもかかわらず、国の機関の財務会計行為については住民が関与する手段が全くありません。アメリカの納税者訴訟に範をとったといわれる住民訴訟制度であるのなら、国の会計行為にも適用があって然るべきと考えるのは編者一人でしょうか。
|