法務支援室からE

住民訴訟制度等の改正について(1)
「フロンティア180」夏季号・第50号より

1 はじめに
  平成14年3月に「地方自治法等の一部を改正する法律」が公布され、議会制度をはじめとして広範な制度改正がなされたところですが、この中で従来から懸案とされていた住民訴訟制度等についても大幅な改正がなされ、同年9月から施行されました。
  新制度に基づく訴訟事案がマスコミで取り上げられ、また住民訴訟を前提とした相談事例も散見されることから、住民訴訟とそれに関連する制度の改正事項の中で、実務上、特に影響が大きいと思われる点に絞り、2回に分けてお伝えしたいと思います。
  今回は住民監査請求(法第242条)と会計職員の賠償責任(243条の2)をめぐる改正について、次回は住民訴訟(第242条の2)における改正内容を掲載する予定です。
  なお、本稿では地方自治体の実務担当者の視線から今回の制度改正の起伏を眺めることを目的としていますので、意見にわたる部分については、あくまで編者の実務経験に基づいた個人的な見解ですので、あらかじめご了承ください。
2 住民訴訟とそれに関連する制度
  最初に、今回の法改正の趣旨を理解するためには、住民訴訟と住民監査請求、会計職員の賠償責任、この三者の関係をきちんと把握しておく必要がありますので、若干の整理をしておきたいと思います。要約して述べるならば、次のようになります。
  (1)会計職員の賠償責任
  法所定(法第243条の2第1項)の会計職員に関する賠償責任については当該条項を根拠として、またそれ以外の職員等に関する賠償責任等については民法の規定を根拠として、長が地方公共団体を代表して賠償等を請求する(会計職員については賠償の命令、それ以外の職員等については損害賠償または不当利得返還の請求)。
  (2)住民監査請求
  地方公共団体の住民は、違法又は不当な財務会計上の行為があると認めるとき、あるいは(1)の請求をはじめとした財産管理等を違法又は不当に怠っていると認めるときは、監査委員に対して監査を求め、損害補填等の必要な措置を講ずることを求めることができる(法第242条)。
  (3)住民訴訟
  (2) の請求をなした者が、監査結果等に不服があるときは、裁判所に対して、(2)の違法な行為又は怠る事実につき、@当該行為の差止め、A当該行為の無効確認、B当該事実の違法確認、C関係職員等に対する賠償請求等(会計職員については賠償命令を発すること)を求めることができる(法第242条の2)。
3 住民監査請求の改正
  (1)字数制限の撤廃
  従来、住民監査請求を行う場合に、請求書に記載できる請求の要旨は千字以内に制限されていましたが(施行令第172条)、字数制限には合理的な理由が考えられず、むしろ請求段階において、住民が書面で十分な主張を行うことができるようにするため、このような制限は廃止されました。
  実務上も、「句読点は字数に含まれないが、要旨を項に分けて書いた場合の記号(たとえば一、二、三等は含まれる」といった行政実例に象徴される煩雑な計数作業や「なぜ千字なのか」といった請求者からの苦情からも解放されるに至ったことは、大きな前進と考えます。
  (2)暫定的停止勧告制度の創設
  地方制度調査会の答申等において、地方公共団体における違法な財務会計上の行為については、訴訟による事後的な是正よりも、行政自らの判断により事前に対処することが望ましいとされたことを受けて、監査請求があった場合に、次の要件に合致すると認めるときは、監査委員は長その他の執行機関等に対し、理由を付して勧告等の手続が終了するまでの間、当該行為を停止すべきことを勧告することができるようになりました。
  @当該行為が違法であると思料するに足りる相当な理由がある。
  A当該行為により地方公共団体に生ずる回復の困難な損害を避けるために緊急の必要がある。
  B当該行為を停止することによって人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがない。
  しかし、限られた監査期間(60日)の間に、このように厳格で「あてはめ」が容易でない要件に基づいて、適切な判断をなし得るのかといった点については、「今後の課題」というほかないものと思います(具体的な解釈・運用に関し、平成14年3月30日付総務省自治行政局行政課長通知参照)。
  (3)その他  
  監査委員の監査の信頼性と透明性を確保するために、学識経験を有する者等から意見を聴いたり(法第199条第8項)、意見陳述聴取の際に関係人を立ち会わせることができることとされました(法第242条第7項)。
4 会計職員の賠償責任の改正  
  ここでは、賠償命令に関する除斥期間の削除について述べます。
  2の(1)で述べた会計職員に対する長の賠償命令については、法第243条の2第3項で「ただし、同項(第1項)前段の場合(出納長等の現金亡失等)にあってはその事実を知ってから、同項後段の場合(支出負担行為職員等の違反行為等)にあってはその事実の発生した日から3年を経過したときは、賠償を命じることができない」(太字体は編者の加筆)とされていましたが、今回の改正でこのただし書が削除されました。
  その結果、長の賠償命令については、原則に戻って法第236条の金銭債権の消滅時効が適用され、当該賠償責任が5年間の経過により消滅するまでの間、賠償命令を行使することができることとなります。
  これは、最高裁判決(昭和61年2月27日)で除斥期間の経過後も賠償責任自体は存続し、賠償命令以外の方法でその責任を追求することができる旨判示されたことを受けたものです(「同条1項所定の職員の行為により生じた当該普通地方公共団体の損害賠償請求権については、その性質上、賠償命令の除斥期間とは別に、法第236条の債権の消滅時効の規定の適用があるものと解釈される」と判示された)。
  色々な制約があるにせよ、司法判断で制度的な不整合が明らかとなった場合は、今後とも速やかな改正が望まれるところです。