顧問弁護士の目で見た町村行政D
どうやって談合を防止すれば良いのか公共工事入札の諸問題
北海道町村会顧問弁護士 佐々木泉顕
「フロンティア180」春季号・第41号より

B君(A建設会社の新入社員)
 「最近、ムネオハウスのことや公立学校の警備業者選定のことで、何かと入札の問題が騒がれています。私も公務員目指して勉強していた関係上、非常に入札問題については興味があるのでいろいろと教えてください」

弁護士
 「入札制度とは、契約の内容について多数人を競争させ、そのうち最も有利な内容を提供する者を相手方として契約するシステムです。平成11年10月に北海道が行う農業農村整備事業に関して上川支庁等に対して公正取引委員会の立入調査が行われたことや、平成12年の9月には札幌市の建築部部長職が学校解体工事の発注に関する収賄容疑で逮捕されたことから、北海道でも入札問題がクローズアップされてきました。
 そこで、北海道も札幌市も入札制度の改善について検討する委員会を設置して具体的な検討を行うことにしたのです。また、国や特殊法人についても平成五年のゼネコン汚職問題を契機として、談合、丸投げなどの公共工事をめぐる不祥事が後を絶たないところから、公共工事に対する国民の信頼を回復するため、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律が平成12年11月17日に成立しており、国民生活の基盤となる社会資本の整備を行うための公共工事の入札や契約をいかに適正なものとするかは国民全体の関心事なのです」

B君
 「すみません。ところで、地方公共団体が業者と契約する場合には必ず入札手続を行わなければならないのでしょうか?」

弁護士
 「(驚きながら)君は本当に公務員目指して勉強していたの?地方自治法234条を読んだことはないのですか?」

B君
 「(言いにくそうに)大学ではもっぱら地方分権のことや市町村合併のことばかり勉強していたので、正直なところ地方自治法はあまり読んだことがないのです。」

弁護士
 「(多少あきれながら)分かりやすい例で説明しますと、地方公共団体が業者と工事請負契約を締結する場合、不特定多数の者を入札に参加させる一般競争入札方式が、そして、落札者の決定方式としては入札価格のみにより自動的に決定する方式が地方自治法上の大原則となっております。要するに、不特定多数の業者に競争させてできる限り安い価格で工事をしてもらうことが住民の税金で賄われている公金の支出を少なくし、住民の利益に合致するという考えなのです」

B君
 「ただ、安ければ安いほど良いというわけではありませんよね。安い工事代金で請負って、手抜き工事で建物を建てれば結局あとで補修工事費がかさむことになるのではありませんか」

弁護士
 「今日初めてまともな質問が出たね。B君が指摘するような危険もあることから、地方自治法は予定価格(注1)以下の価格で、最低の価格を表示した者、つまり一番安い価格で入札した会社であっても、あらかじめ定めた最低価格に満たない金額で入札した場合には、それ以外の者を落札者とすることも認めており、具体的な要件は地方自治法施行令に委ねています。これが最低制限価格というものです。工事の内容等によっても異なりますが、例えば工事費用が1億円の予定価格の場合で予定価格の7割である7000万円以下では、適切な工事が期待できないという場合に7000万円を最低制限価格として最低制限価格未満の価格で入札した業者は失格となるのです。」

B君
 「でも、先日の新聞では、ある市の公共施設の清掃業務を普通の業者は年間500万円程度の金額で入札したのに、1社だけ年間8000円というとんでもない安い金額で落札したという記事や、やはり他社よりも安い金額で落札した清掃業者が契約期間の途中で業務をやめてしまったという記事が出ていましたが、これはどうしてですか」

弁護士
 地方自治法施行令で最低制限価格を設けることができるのは、「工事または製造の請負」に限定されるので、清掃のような業務委託契約の競争入札の場合には最低の価格で入札した業者と契約することになってしまうからなのです。しかし、このような弊害を防ぐため最近では、調査基準価格というものを設定して、それ以下の金額で入札した業者に対しては、履行能力、積算内容、実績等を調査して、誠実に業務を履行する意思や能力があるかどうかを確認したうえで契約するようになっております」

B君
 「ところで最近は談合防止や業者と担当公務員の癒着を防止するための対策を研究しているようですが具体的にはどのような方法が研究されているのですか」

弁護士
 「あくまでも試行の段階ですが、一部の競争入札で予定価格を公表することを行っております。これは、予定価格を探ろうとして担当公務員と癒着するなどの不正行為を防止することを防止しようとするものです。また、これも試行の段階ですが、指名競争入札の被指名者を入札前は非公表とする試みも行っております。これは被指名者が誰であるかが分からなければ談合防止に役立つという発想です」

B君
 「でも、うちの会社の社長は、予定価格が事前公表されてしまえば、入札に参加する業者は予定価格を参考にして見積もりをするので、見積もり努力が損なわれるし、競争が制限されて結果的に落札価格が高くなってしまうので何もいいことはないと文句を言ってましたよ」

弁護士
 「確かに業界からはそのような指摘も多いのですが、現在までに集約ずみの統計では予定価格を公表した場合と非公表の場合とで差が生じているとはいえません。また、北海道以外ですでに予定価格の事前公表を行っている自治体も、特段の問題点はないと考えているところが多いようです。ただ、業者に積算内訳書の提出を求めるなど、業者の適正な見積もり努力を促す必要はあるでしょう。また、落札率を下げることは住民の負担を軽減することにつながりますから落札率の推移も見守る必要があります」

B君
 「うちの会社の社長の話では、落札率の低下により工事価格が安くなりすぎてしまい建設業者の経営を圧迫することになっていることや、安値受注による手抜き工事が増加しているのだから入札制度は改善する必要はなく元のままで良いと言っておりましたが」

弁護士
 「公共工事のコストを下げることは、住民全体の要望ですから落札価格の低落については、各企業がより一層コスト削減などの企業努力を行うべきであると考えます。また、企業の経営が苦しいのは、たんに入札制度の改善のためだけではなく、景気の悪化、財政逼迫による公共工事の減少が影響していますから景気対策と併せて検討する必要があるでしょう。入札の競争性が更に高まれば当然ダンピング受注が増加することが予想されます。落札率が低下して一時的に工事請負代金の節約ができたとしても工事の品質に問題があれば事後に補修費用が余計にかかることになり、長期のスパンでみると住民の負担が軽減されることにはつながらないでしょうから、工事等の成果物の品質確保のために検査体制の充実など最大限の注意を払う必要があると考えます。
 現在、国土交通省等では工事の入札をインターネットを利用して行う電子入札システムに取り組んでおり、昨年十月から一部の同省直轄工事で電子入札が実施されております。北海道でも近い将来電子入札が導入される可能性が高く、そうなれば入札の競争性は更に高まるでしょう。しかし、競争性を高めて落札率を低くすれば良いというものではありませんので、落札率低下に伴う弊害対策を講じながら入札手続の基本的理念である、透明性、公平性、客観性、競争性を確保する努力をしなければなりません」



注1
 地方公共団体が契約を締結するに際し、その契約金額を決定する基準として長があらかじめ作成する価格である。