公務員の告発義務とその方式について
 
(質問)
 職員がその職務を遂行している過程で、刑法や各個別法令で規定している犯則行為の事実を発見しましたが、捜査機関に申告すべきかどうか内部で意見が分かれています。
 ついては、次の点について教示願いたい。
 @職員は捜査機関に対して告発する義務を負うか。
 A告発する場合、誰の名前で告発すべきか。
 B告発する場合、被疑者を特定しなければならないか。


(回答)
1 告訴と告発
 告発と類似したものに告訴があり、いずれも捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示である点及びその手続については基本的に同じですが、告訴が犯罪の被害者その他の告訴権者でしかなしえないのに対し、告発はだれでもできる点が大きく異なります。
 告訴については刑事訴訟法(以下「法」という。)第230条以下に規定があり、告発については法第239条以下に規定されています。
2 公務員と告発
(1) 法令の規定
 法第239条第1項では「何人でも犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」とし、第2項では「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」としています。
 ここで、「その職務を行うことにより」とは、必ずしもその犯罪事実の発見そのものが職務内容である必要はなく、「職務の執行に際し」と広く解するのが通説となっています。したがって、公務員が通勤途上等、私人と同じ立場で発見した犯罪事実については、第2項の対象となるものではありません。
(2) 告発義務  
 公務員が職務執行に際し犯罪事実を発見した場合は、必ず告発しなければならないものでしょうか。
 説は分かれており、第239条第2項の規定を訓示規定とするものもありますが、通説はこれを義務規定としています。
 しかしながら、この通説においても、告発するか否かについて職務上正当と考えられる程度の裁量まで許さないとするものではないというのが一般的な考え方となっています。
 ここで問題となるのが、職務上正当か否かの判断ですが、この点については「例えば、公立中学校の生活指導担当の教諭が、喫煙をしている生徒を見つけたが、いまだ生活指導の余地ありとして、教育上の見地から告発をしないことは、事情によっては『職務上正当』と認められるであろう。これに対し、本来捜査機関によって判断されるべき事由、例えば、被疑者の再犯のおそれ、改悛の情の有無等を判断して、これによって告発するか否かを決めたり、その他自己の職務と関係のない事由によってこれを判断したりすることは、許されない」ものと解されています(地方行政実務の法律相談上巻(ぎょうせい)93〜95p)。
3 告発の要件
(1) 告発人の名義
 告発は、だれでも、また口頭によってもこれを行うことができますが(法第241条)、上記のとおり告発には訴追を求める意思表示を必要とするものと解されることに加え、告発するか否かについて職務上の判断をする余地があると解されることから、「公務員として告発するについては、当該事案につき決定権限を有する者がこれに関与するのが一般的であって、地方公共団体の場合にあっては、一般に所属長(課長・所長等)以上の名義で告発するのが適当であると思われる」とされています(上記「法律相談」95p)。
(2) 被告発人の特定
 被疑者が明確な場合は問題がありませんが、明確でない場合には、告訴の場合と同じく被疑者を特定する必要はないものとされており(注釈刑事訴訟法第2巻(立花書房)286p)、このような場合には、いわゆる「被疑者不詳」として告発することになります。
 なお、告訴における解説では「告訴は、捜査機関に対し犯罪事実を申告し、それに関与した者の処罰を求める意思が明示されておれば足りる。告訴は、特定の犯罪事実を対象としてなされるものであって、特定の犯人を対象としてなされるものではない」とされています(上記「刑事訴訟法」253p)。
 また、どの程度の犯罪事実の特定を要するか等についても、告訴の場合と全く同様で、起訴状のように厳密に犯罪構成要件該当の事実を示す必要はなく、要するに他の犯罪事実と区別して、どのような事実について告発をしたかが一見明らかでない場合でも、告発書その他の参考資料によって、告発人の意思が明らかになる限りは、その告発は有効であるとされています(上記「刑事訴訟法」286p)。