損害賠償請求事件(大阪府茨木市)
○ 市の臨時的任用職員に対する年2回の一時金の支給が条例の根拠を欠き違法であるなどとして当該支給を決裁した市長に対し損害賠償の請求をすることを命じた事例
大阪地裁 平成20年01月30日
事件番号 成17(行ウ)146
事件名 損害賠償請求事件
出典 最高裁判所ホームページ
【判示要旨】
市の臨時的任用職員に対する年2回の一時金の支給が条例の根拠を欠き違法であるなどとして当該支給を決裁した市長に対し損害賠償の請求をすることを命じた。
【判決文】(抜粋)
主文
1 本件訴えのうち茨木市の臨時的任用職員に対する平成7年度から平成15年度までの増給分の支給に係る部分を却下する。
2 被告は,bに対し,6689万円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める請求をせよ。
3 原告らのその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,これを20分し,その17を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,cに対し,4億4728万5000円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める請求をせよ。
2 被告は,bに対し,6775万円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める請求をせよ。
第2 事案の概要
1 本件は,茨木市の住民である原告らが,茨木市長は,平成7年度から平成16年度にかけて,臨時的任用職員に対し,条例の根拠がないにもかかわらず市長決裁のみで,毎年6月と12月の2回にわたり増給分(一時金)として一律に4万円(6月期)及び4万5000円(12月期)を支給してきたが,当該支給は違法な公金の支出であり,これによって,同市は,平成7年度分ないし平成11年度分について合計2億3582万5000円,平成12年度分について4716万5000円(上半期につき2120万円,下半期につき2596万5000円),平成13年度分について4872万5000円(上半期につき2204万円,下半期につき2668万5000円),平成14年度分について5307万5000円(上半期につき2396万円,下半期につき2911万5000円),平成15年度分について6249万5000円(上半期につき2816万円,下半期につき3433万5000円),平成16年度分について6775万円(上半期につき3040万円,下半期につき3735万円)相当額の損害を被ったなどと主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被告茨木市長に対し,平成16年4月17日まで同市の市長の職にあったcに損害賠償として上記各公金の支出のうちその在職中の支出額相当額4億4728万5000円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求を,同月18日以降同市の市長の職にあるbに損害賠償として上記各公金の支出のうちその在職中の支出額相当額6775万円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求をすることを求めた事案である。
第3 当裁判所の判断
1 本件訴えのうち平成7年度から平成15年度までの本件一時金の支給に係る部分は適法な住民監査請求の前置を欠くか(争点@)
(1) 本件監査請求は,茨木市が平成7年度から平成16年度にかけて臨時的任用職員に対してした本件一時金の支給に係る公金の支出を対象とするものであることは,本件監査請求に係る請求書(茨木市職員措置請求書。甲1の1)の記載に照らして明らかであるところ,前記前提事実によれば,本件監査請求のうち平成15年度以前の本件一時金の支給を対象とする部分は,当該公金の支出から1年を経過した後にされたものであることが明らかである。そこで,上記部分について地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるか否かについて検討する。
(2) 前記法令等の定め及び前記前提事実によれば,平成16年度以前の本件一時金の支給については,旧給与条例にも本件内規にも直接これについて定めた明文の規定がなく,旧給与条例36条の「この条例に定めるものの外,必要な事項は規則で定める。」旨の規定及び本件内規7条1項ただし書の「日給又は時間給によらない場合は,任命権者が別に定める。」旨の規定に基づく市長決裁により行われてきたものである事実が認められ,また,乙7及び弁論の全趣旨によれば,茨木市の平成16年度一般会計予算書においても,歳出の「款」総務費,「項」総務管理費,「目」一般管理費,「節」賃金の区分にその「細節」を「臨時雇」として,あるいは,歳出の「款」民生費,「項」児童福祉費,「目」児童福祉総務費,「節」賃金の区分にその「細節」を「臨時雇」として,それぞれ臨時的任用職員に対する本件一時金を含めた賃金総支給額のみが計上されているにすぎず,平成15年度以前の予算に係る予算書においても同様であったと推認される。
もっとも,乙4,乙5の1,2,乙18,証人dの証言及び弁論の全趣旨によれば,平成16年度予算の作成手続において平成15年10月ころ財政課が作成して各課に交付した平成16年度予算要求基準(乙4)には,「歳出予算節別要求基準」の「賃金」の節にその細節を「臨時雇」として,「【増給分】〈夏期〉40,000円×人数〈年末〉45,000円×人数(ただし,基準日(6/15,12/1)からさかのぼって2か月前から勤務している者のみ)」との記載がされていること,上記予算要求基準を受けて各課において平成15年11月ころ予算要求のために作成した歳出予算見積書(乙5の1,2)には,款項目「児童福祉総務費」の節「賃金」,細節「臨時雇」の「積算基礎」欄には,「児童手当事務臨時職員930 6,100円×142日×1人=867 160円×142日×1人=23 40,000円×1人=40」,款項目「一般管理費」の節「賃金」,細節「臨時雇」の「積算基礎」欄には,「増給分@40,000×67人=2,680 @45,000×67人=3,015」などと記載されていること,歳出予算見積書は平成16年10月1日以降茨木市庁舎の情報ルームに備置して住民の閲覧に供していること,平成17年度以降の歳出予算見積書については,議会において予算が議決された段階(3月末ころ)で情報ルームに備置する扱いとしていること,なお,旧給与条例のみならず本件内規も茨木市の例規集に掲載され,昭和63年以降茨木市庁舎情報ルームに備置され閲覧に供されているほか,平成13年10月以降は同市のホームページに掲載されていること,以上の事実が認められ,平成15年度以前の予算に係る予算要求基準及び歳出予算見積書においても上記と同様の記載がされていたものと推認される。
また,甲1の7,8,乙10,11,18,証人dの証言及び弁論の全趣旨によれば,本件一時金の支給手続においては,臨時的任用職員の任用期間である6か月に合わせる形で,毎年4月及び10月の半期ごとに,臨時的任用職員を任用する各課において,臨時的任用職員を任用し賃金及び本件一時金を支払うことについての支出負担行為書が作成され,毎年6月及び12月の各支給時には,各課において支出命令書が作成されて,それぞれ決裁手続を経るところ,平成16年4月1日に決裁された件名をいずれも「契約課臨時職員賃金」とする支出負担行為書及び同年9月30日に決裁された支出負担行為書(甲1の7,乙10)には,必要経費の内訳として,それぞれ「増給分@40,000円×1人=40,000円」,「増給分@45,000円×1人=45,000円」と記載され,同年6月14日発行の「契約課臨時職員賃金上半期増給分」に係る支出命令書(乙11)及び同年12月1日発行の「契約課臨時職員賃金下半期増給分」に係る支出命令書(甲1の8)には,上記のとおりその内容が記載されるとともに,その支給額(それぞれ4万円及び4万5000円)が記載されていること,以上の事実が認められ,平成15年度以前の本件一時金の支給に係る支出負担行為書及び支出命令書にも同様の記載がされていたものと推認される。
さらに,乙1,18,証人dの証言及び弁論の全趣旨によれば,本件一時金の支給は遅くとも昭和56年ころから行われていること,臨時的任用職員の任用に当たっては,応募者に対し,勤務条件の一つとして,本件一時金の額及びその支給時期についても説明していること,平成13年12月14日に開催された茨木市議会平成13年総務環境常任委員会において,委員から,臨時的任用職員に対する通勤手当が再任用の職員と比べてもあまりに低く,この格差についてどういう見解を持っているかという質問がされ,d人事課長から,臨時的任用職員の勤務条件について,賃金と増給分,手当,すべてトータルで考えており,他市との均衡等も考えてその勤務条件の是正に努めており,この3年間で正規職員には勤勉手当0.55か月の削減があり,この分に見合う増給分,6月期で4万円,12月期で4万5000円を支給しているといった内容の答弁をしており,上記の質疑応答が記載された議事録は,遅くとも平成14年10月1日には茨木市のホームページに掲載されていたこと,原告aは,平成16年7月30日,茨木市情報公開条例に基づき平成16年度歳出予算見積書を含む公文書の公開請求をするとともに同歳出予算見積書を住民に開示するよう要望し,茨木市の担当職員は,同原告に対し,同年9月下旬ころ,同歳出予算見積書の写しを交付するのでこれを取りに来るよう伝えたが,同原告は平成17年2月18日になってこれを受領したこと,以上の事実が認められる。上記認定事実によれば,茨木市においては,約40年にわたり,臨時的任用職員に対して本件内規に基づく日給又は時間給の賃金とは別に期末手当に相当する本件一時金が支給され,本件一時金の支給は臨時的任用職員の任用に当たり勤務条件の一つとして応募者に説明されるなどその存在が秘匿されていたものではなく,しかも,その支給対象も,平成12年度以降に限ってみても,約500人ないし800人もの数に及んでいることに加えて,本件一時金は予算要求基準書,歳出予算見積書,支出負担行為書及び支出命令書に「増給分」としてその金額等が明記され,これらの公文書は茨木市情報公開条例に基づく情報公開の対象となっており,しかも,平成16年度以降の歳出予算見積書は,平成16年10月1日以降,市庁舎情報ルームに備置されて住民の閲覧に供されている(平成16年度の歳出予算見積書は同日備置されている。)のみならず,同市の担当者により臨時的任用職員に対し増給分として6月期に4万円,12月期に4万5000円をそれぞれ支給している旨の答弁が記載された同市議会総務環境常任委員会の議事録が平成14年10月1日には茨木市のホームページに掲載されていたというのであり,これらに記録された本件一時金の支給に関する情報と同市の例規集に掲載された旧給与条例及び本件内規を照合すれば,本件一時金の条例上の根拠の有無について一定の判断を容易に行うことができるというべきである。このような事実関係の下においては,遅くとも平成16年10月1日までには,茨木市の住民が相当の注意力をもって調査を尽くせば,平成16年度の本件一時金の支給みならず平成15年度以前の本件一時金の支給についても,監査請求をするに足りる程度にその存在及び内容を知ることが容易にできたものというべきである。
しかるところ,本件監査請求は,上記時点から約9か月を経過した後にされたものであるから,監査請求をするに足りる程度に上記の本件一時金の支給の存在及び内容を知ることができた時から相当な期間を経過した後にされたものというほかない。そうであるとすれば,本件監査請求のうち平成15年度以前の本件一時金の支給を対象とする部分は,当該公金の支出から1年を経過した後にされたことについて,地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるということはできない。
(3) 以上検討したところによれば,本件訴えのうち,平成15年度以前の本件一時金の支給に係る部分,すなわち,平成7年度から平成15年度までの本件一時金の支給に係る部分については,適法な住民監査請求の前置を欠くことになるから,その余の点について判断するまでもなく,不適法というべきである。
3 臨時的任用職員に対し期末手当に相当する一時金を支給することが許されるか(争点A)
(1) 前記のとおり,地方自治法は,普通地方公共団体の常勤の職員と非常勤の職員とで異なる給与体系を規定し,非常勤の職員については,議会の議員を除いて,報酬及び費用弁償のみを支給するものとし,報酬についてはその勤務日数に応じて支給するのを原則とし,他方,常勤の職員については,給料及び旅費並びに法定の各種手当を支給するものとしている。その趣旨については,そもそも給与は勤務に対する反対給付としての性格を有するものであるが,常勤の職員については,その勤務の態様からして,その給与が当該職員及びその家族の生計を支えるいわゆる生活給としての意味を有するものということができるのに対し,非常勤の職員については,その勤務の態様からして,その給与が生活給的意味を有せず,純然たる勤務に対する反対給付としての性格のみを有するものということができるから,常勤の職員の給与については,我が国の生活習慣上盛夏と年末に生活費が一時的に増嵩することを考慮して支給される生活給である期末手当や退職後の生活保障的性格をも有する退職手当等の各種手当を支給すべきものとし,非常勤の職員の給与については,勤務に対する反対給付として,原則としてその勤務量,具体的には勤務日数に応じた対価及び費用弁償のみを支給すれば足りるとしたものであると解される。そして,地方自治法の定める常勤の職員と非常勤の職員に関する他の関係規定にもかんがみると,地方自治法204条1項にいう常勤の職員と同法203条1項にいう非常勤の職員の意義については,同法が上記のとおり異なる給与体系を定めた趣旨に即して解するのが相当というべきである。そうであるとすれば,地方自治法204条1項にいう常勤の職員とは,その勤務の態様に照らして当該勤務が当該職員及びその家族の生計を支えるいわゆる生活の糧を得るための主要な手段と評価し得るような職務に従事する職員をいい,そのような職員に該当するか否かについては,当該職員の任用形式のみならずその職務の内容及び性質等をも勘案し社会通念に従って決すべきものと解される。
ところで,国家公務員については,前記のとおり,人事院規則15−15第2条において,非常勤職員の勤務時間は,日々雇い入れられる非常勤職員については1日につき8時間を超えない範囲内において,その他の非常勤職員については常勤職員の1週間当たりの勤務時間の4分の3を超えない範囲内において,各省各庁の長の任意に定めるところによる旨規定している。この規定は,国家公務員における非常勤職員を定義したものではなく,非常勤職員の勤務時間について定めたものにすぎないが,非常勤職員の勤務時間を常勤職員のそれの4分の3を超えてはならないと規定した趣旨については,前記のとおり,実質的に常勤職員と異ならないものについてこれを非常勤職員として非常勤職員に関する給与の規定を適用することは公平と統一を欠くことになるからであるとされ,「4分の3」とした理由については,いわゆる定員法の枠外を作らない意図の下に,常勤職員と非常勤職員との勤務時間の差を最小限度4分の1としておけば,その間の混同を生じないと考えたものとされている。このような人事院規則の規定の趣旨に加えて,常勤の職員の1週間当たりの勤務時間(勤務時間法5条1項において休憩時間を除き1週間当たり40時間と定められている。)の4分の3(勤務時間法の上記定めによれば30時間)を超えるような態様の勤務に従事する職員は,社会通念に照らしても,当該勤務が当該職員及びその家族の生計を支えるいわゆる生活の糧を得るための主要な手段となっているのが通常であると考えられることを併せ考えると,地方公務員についても,1週間当たりの勤務時間が常勤の職員の所定の勤務時間の4分の3を超えるような態様の勤務に従事する職員は,地方自治法204条1項にいう常勤の職員に該当するものと推定されるというべきである。そして,1週間当たりの勤務時間が常勤の職員の4分の3を超えるか否かについては,当該職員の任用に当たって勤務条件として提示された勤務時間のみではなく,当該職務の内容及び性質並びに職員の配置状況等にかんがみ当該職員の職務が客観的にみて当該普通地方公共団体における常勤の職員の所定の勤務時間の4分の3を超える勤務を要するものであるか否かという観点から社会通念に照らして判断すべきである。
(2) 前記前提事実によれば,茨木市は,平成7年度から平成16年度にかけて,市長の決裁により,各年度の6月及び12月の2回にわたり,地方公務員法22条5項の規定による臨時的任用職員として採用された者のうち,1週間当たり3日以上勤務する者で,6月15日及び12月1日の各基準日にそれぞれ2か月以上在職し,かつ,支給日現在において在職するものに対し,それぞれ上半期増給分(基準日が6月15日であるもの)及び下半期増給分(基準日が12月1日であるもの)として,1人当たり一律に4万円(上半期増給分)及び4万5000円(下半期増給分)を支給してきたというのである。これらの増給分(本件一時金)は,その支給時期及び支給金額に照らしても,地方自治法204条2項にいう「期末手当」に該当することが明らかであるところ,同法203条ないし204条の2の規定によれば,同法は,同法204条1項にいう常勤の職員のほか普通地方公共団体の議会の議員に対してのみ期末手当を支給することができるものとし,議会の議員を除く非常勤の職員に対しては条例でもってしても期末手当を支給することができないものとしていることが明らかである。そうであるとすれば,本件一時金の支給の対象とされた臨時的任用職員が地方自治法204条1項にいう常勤の職員に該当しない限り,そもそも,期末手当に該当する本件一時金を支給することは,同法の上記各規定に違反し,その余の点について判断するまでもなく,違法といわなければならない(なお,原告は,地方公務員法22条2項,5項の臨時的任用職員は,本来,非常勤の職員として任用することが予定されており,地方自治法203条が適用されるべきである旨主張するが,地方公務員法の臨時的任用職員に関する規定は一般職の職員の任用についての特則を規定したものであって,緊急の場合又は臨時の職に関する場合等における任用と当該任用に係る職が常勤の職か非常勤の職かとは必ずしも性質上の関連性を有するものではなく,前記のとおり国家公務員の場合は人事院規則をもって臨時的任用を常勤官職に限定していることと対比しても,原告の上記主張を採用することはできない。)。
ところで,前記前提事実のとおり,平成16年度の本件一時金の支給の対象者は,上半期については761人,下半期については810人に及んでおり,これらの者が上記認定の市長決裁に係る基準(1週間当たり3日以上勤務する者で,6月15日及び12月1日の各基準日にそれぞれ2か月以上在職し,かつ,支給日現在において在職するもの)に該当するとしても,上記基準にいう「1週間当たり3日以上勤務する者」という勤務の態様のみからは,直ちに当該職員がすべて地方自治法204条1項にいう常勤の職員に該当するものと推定することはできない。すなわち,証人dの証言及び弁論の全趣旨によれば,茨木市における常勤の職員の勤務時間は,1週間当たり38時間45分(1日当たり7時間45分)であり,臨時的任用職員の1日当たりの勤務時間は常勤の職員よりも1日当たりの勤務時間が15分短く設定されている事実が認められ,これによれば,臨時的任用職員のうち少なくとも1週間当たりの勤務日数が3日の者は,その1週間当たりの勤務時間は常勤の職員の勤務時間の6割弱(約58.1%)にしかすぎないことになるところ,社会通念に照らしても,そのような勤務時間に係る勤務が当該勤務に従事する職員及びその家族の生計を支えるいわゆる生活の糧を得るための主要な手段となっているとは直ちに認め難いから,このような勤務に従事する職員が地方自治法204条1項にいう常勤の職員に該当するものと推定することはできないというべきである。
また,上記のとおり臨時的任用職員の1週間当たりの勤務時間について所定の勤務時間にとどまらず当該職務の内容及び性質並びに当該部署における職員の配置状況等をもしんしゃくしてこれを実質的に判断するものとしても,乙18及び証人dの証言によれば,茨木市においてはその大部分の部署に臨時的任用職員を配置しており,その数は800人を超えているというのであり,平成16年度において本件一時金の支給の対象とされた上記の職員(上半期につき761人,下半期につき810人)についても,その従事する職務の種類及び内容は多岐にわたっていると推認されるのであって,これらについての具体的な主張,立証を欠く本件においては,平成16年度において本件一時金の支給の対象とされた臨時的任用職員各自の実質的な勤務時間はもとより,当該勤務時間を含めた具体的な勤務の態様を証拠等によって認定することもできない(当該臨時的任用職員の1週間当たりの実質的な勤務時間が常勤の職員の所定勤務時間の4分の3を超えているか否か等を認定することができないことはもとより,仮に上記市長決裁に係る基準程度の勤務時間であっても当該職務が強度の身体的負荷を伴うようなものであるなど当該職務の内容,性質等にかんがみると社会通念に照らして当該職務に従事する職員を常勤の職員と評価し得る余地も一般的にはあり得るところであるが,そのような評価の基礎となる事実関係を証拠等によって認定することもできない。)。そうであるとすれば,上記の臨時的任用職員が市長決裁に係る上記基準に該当するというのみでは,これらの職員が地方自治法204条1項にいう常勤の職員に該当するものと推定することはできず,他にこれらの職員が同項にいう常勤の職員に該当することを認めるに足りる証拠もない。
以上検討したところによれば,それ以上の主張,立証を欠く本件においては,平成16年度の本件一時金の支給は,その余の点について判断するまでもなく,地方自治法203条ないし204条の2の各規定に違反し,違法といわなければならない。
なお,被告は,どのような職員が地方自治法にいう常勤の職員ないし非常勤の職員に該当するのかの判断は各普通地方公共団体の合理的な裁量にゆだねられている旨主張するが,同法が常勤の職員と非常勤の職員とで異なる給与体系を規定した趣旨に抵触しない限度で各普通地方公共団体において地域の実情に応じて条例により同法203条の適用の対象となる非常勤の職員の範囲ないし同法204条の適用の対象となる常勤の職員について規定することを許容しているものと解する余地はあるとしても,茨木市の場合は単なる市長決裁により期末手当の性格を有する本件一時金の支給対象となる職員の範囲を決定していたというのであるから,後に説示する給与条例主義の観点からしても,これを同法により普通地方公共団体にゆだねられた裁量権の合理的な行使として許容する余地はないというべきであり,また,具体的な範囲の画定基準自体についても,前記のとおり,同法が常勤の職員と非常勤の職員とで異なる給与体系を規定した趣旨に抵触しないということはできないものというべきであるから,被告の上記主張を採用することはできない。
以上のとおり,平成16年度の本件一時金の支給対象とされた職員が地方自治法204条1項にいう常勤の職員に該当することについての主張,立証を欠く本件においては,当該支給は,その余の点について判断するまでもなく,地方自治法203条ないし204条の2の各規定に違反し,違法というほかないが,これらの職員の中には,以上説示したところに照らしても,地方自治法204条1項にいう常勤の職員に該当するものが少なからず含まれている様子がうかがわれなくもないことにかんがみ,争点B及びCについても検討を加えることとする。
4 本件一時金の支給は給与条例主義に違反するか(争点B)
前記前提事実等によれば,平成16年度の本件一時金の支給当時,茨木市においては,臨時的任用職員の給与について定めた特別の条例はなく,臨時的任用職員も地方公務員法にいう一般職に属する地方公務員に該当することからして,一般職の職員の給与に関する事項を定めることを目的として制定された一般職の職員の給与に関する条例(本件改正条例による改正前の旧給与条例)が適用されるものと解されるところ,旧給与条例にも,臨時的任用職員の給与に関して明示的に定めた規定はなく,また,旧給与条例の各規定はその内容に照らし臨時的任用職員に対してもそのまま適用されると解することもできないから,結局,旧給与条例は,その36条により,同条例に定めるもののほか必要な事項の一つとして,臨時的任用職員の給与に関する事項に関する具体的な定めを規則に委任していたものと解するほかない。しかるところ,上記当時,茨木市においては,臨時的任用職員に対する給与の支給に関する根拠としては,臨時的任用職員の取扱いに関する内規(昭和39年茨木市内規第1号。本件内規)しか存在しておらず,本件内規は,地方自治法15条所定の規則としての法形式がとられていないことが明らかである上,同法に基づく制定,公布の手続がとられたことを認めるに足りる証拠もないことからして,これを同法15条にいう規則と認めることはできない。しかも,本件内規においても,臨時的任用職員の給与については,7条でその賃金について,8条でその通勤手当について規定しているのみであり,賃金に関する7条の規定も,前記のとおり,「臨時職員の賃金は日給又は時間給とし,勤務日数等に対し支給する。ただし,日給又は時間給によらない場合は,任命権者が別に定める(1項)。前項の日給額等は,別に定める(2項)。賃金は毎月末日で締め切り,その月分を翌月の10日に支給する。ただし,その日が休日,日曜日又は土曜日にあたるときは,その日前においてその日に最も近い休日,日曜日及び土曜日でない日を支給日とする。」と規定するのみで,本件一時金について明示的に規定していないのであり,本件一時金の支給の根拠としては,せいぜい,同条1項のただし書の規定ないし本件内規12条の「この内規の施行について必要な事項は,別に任命権者が定めるものとする。」旨の規定を援用し得るにすぎない。
以上によれば,少なくとも本件一時金の支給については,平成16年度のものも含めて,旧給与条例36条の委任規定に基づく規則すら制定されないまま,任命権者である市長の決定(裁量)によって行われていたものというほかないから,およそ条例の根拠を欠くものといわざるを得ず,地方自治法204条3項,204条の2,地方公務員法25条1項等の規定に違反し,違法というべきである。
5 本件一時金の支給は本件改正条例附則4項の規定によってその支給時にさかのぼって適法なものとなったか(争点C)
(1) 前記2において説示した地方自治法203条,204条及び204条の2の各規定並びに地方公務員法24条6項,25条の各規定の趣旨及びその沿革等にかんがみると,これらの規定が普通地方公共団体の職員の給与に関していわゆる給与条例主義を定めている趣旨は,普通地方公共団体の職員に対して法定の種類の給与を権利として保障するとともに,給与の額及びその支給方法の決定を普通地方公共団体の住民の直接選挙により構成される議事機関である議会が制定する条例にゆだねることにより,これに対する民主的統制を図ったものであると解される。そして,このようないわゆる給与条例主義を定めた法令の規定の趣旨等にかんがみると,普通地方公共団体の職員に対し条例に基づかない給与その他の給付の支給が行われた場合において,その後に条例において当該支給の根拠となる規定を設けるとともに,既に行われた支給について当該根拠規定に基づいて支給されたものとみなす旨を定めることにより,当該支給行為自体を是認し,これをさかのぼって適法なものとすることは,直ちに給与条例主義の上記趣旨を没却するものということはできないのであって,上記条例(いわゆる追認条例)の規定をもって給与条例主義を定めた上記各法令の規定に直ちに違反するものとすることはできないと解される。
もっとも,給与条例主義を定めた上記法令の規定の趣旨等からすれば,上記のようないわゆる追認条例における根拠規定自体が,地方自治法の給与その他の給付に関する規定や地方公務員法の給与に関する規定に違反しないものでなければならないと解される。
(2) 前記のとおり,本件改正後の給与条例36条1項は,「臨時的任用職員の賃金は,日給又は時間給とし,日額13,000円又は時間額1,730円の範囲内において,規則で定める基準に従い任命権者が別に定める。ただし,日給又は時間給によらない場合は,規則で別に定める。」旨規定し,同条2項は,「臨時的任用職員のうち規則で定める者については,規則で定める通勤手当相当分及び期末手当相当分の賃金を支給することができる。」旨規定し,本件改正条例附則4項は,「施行日の前日までに臨時的任用職員に支給された賃金(通勤手当相当分及び期末手当相当分を含む。)は,この条例及びこれに基づく規則の相当規定に基づき支給された賃金とみなす。」旨規定している。これらの規定は,臨時的任用職員のいわゆる本給並びに通勤手当及び期末手当に各相当する賃金の支給についての根拠規定を整備するともに,本件改正条例の施行日の前日までに臨時的任用職員に支給された通勤手当相当分及び期末手当相当分を含む賃金について,本件改正後の給与条例及びこれに基づく規則の相当規定(本件条例36条1項,2項及び臨時的任用職員規則)に基づき支給された賃金とみなすことにより,本件改正条例の施行日の前日までの臨時的任用職員に対するこれら賃金の支給行為自体を是認し,これをさかのぼって適法なものとする趣旨のものと解される。
しかしながら,前記3において認定説示したとおり,臨時的任用職員のうち地方自治法204条1項にいう常勤の職員に該当しない者に対して期末手当を支給することは同法203条ないし204条の2の各規定に違反し許されないから,本件改正後の給与条例36条2項については,臨時的任用職員のうち地方自治法204条1項にいう常勤の職員に該当するものについて期末手当相当分の賃金を支給することができる旨を定めた規定であると限定的に解する余地はなくはないものの,そのような限定解釈が可能であるとしても,当該規定及び本件改正条例附則4項の規定をもって地方自治法204条1項にいう常勤の職員に該当しない臨時的任用職員に対して本件改正条例の施行日の前日までされた本件一時金の支給をさかのぼって適法なものとすることはできないというべきである。したがって,平成16年度の本件一時金の支給のうち少なくとも地方自治法204条1項にいう常勤の職員に該当しない臨時的任用職員に対するものについては,その余の点について検討するまでもなく,給与条例36条2項及び本件改正条例附則4項の規定によりさかのぼって
適法なものとなったということはできない。
(3) 仮に平成16年度の本件一時金の支給対象者のうちに地方自治法204条1項にいう常勤の職員に該当する者が含まれていたとしても,臨時的任用職員に対する期末手当に相当する本件一時金の支給の根拠を定めた給与条例36条2項は,前記のとおり,「臨時的任用職員のうち規則で定める者については,規則で定める通勤手当相当分及び期末手当相当分の賃金を支給することができる。」と規定するのみで,その支給対象者については前記のとおり地方自治法204条1項にいう常勤の職員に該当するものを規則でもって定めることを委任する趣旨のものと解する余地があるとしても,その支給金額についてはその上限すら規定せずにその決定を規則の定めにゆだねており,支給金額を決定するための具体的基準を給与条例の関係規定から読み取ることもできないから,給与条例36条2項は,地方自治法204条3項,204条の2,地方公務員法25条1項等の規定に違反し,違法といわざるを得ない。
すなわち,前記のようないわゆる給与条例主義を定めた地方自治法及び地方公務員法の各規定の趣旨に加えて,普通地方公共団体の職員に対する給与に関する地方自治法及び地方公務員法の各規定の文言及びその沿革にもかんがみると,これら法令の規定は,普通地方公共団体の職員に対する給与について,常勤の職員の場合であると非常勤の職員の場合であるとを問わず,その支給要件及び支給額を条例において具体的に規定することを予定しており,その決定を普通地方公共団体の長又はその制定する規則にゆだねることを一切許容しない趣旨のものとまでいうことはできないものの,これを規則等の定めにゆだねる場合においても,少なくとも当該種類の給与の支給要件該当性及び支給額を決定するための具体的な基準が当該条例自体から読み取れる程度に条例においてこれを具体的に規定することを要するものと解すべきであり,条例において単に給与の支給根拠のみを定め,具体的な額,支給要件等の基本的事項をすべて普通地方公共団体の長又は規則に委任するようなことは,給与条例主義の趣旨に反し,許されないものというべきである。
この点,被告は,普通地方公共団体の臨時的任用職員の制度は,一般職に属する正規職員を中核とする人的体制を補完するものとして,また,その時々の行政需要に柔軟に対処するための制度として,位置付けられているものであり,これらの点において,普通地方公共団体の正規職員とは大きな差異が存するのであって,地方自治法等の定める給与条例主義の解釈適用に当たっても,正規職員と臨時的任用職員のこのような制度上,性質上の差異をしんしゃくせざるを得ず,このことは地方自治法等の予定するところであり,普通地方公共団体の臨時的任用職員に対する給与は,条例において報酬等の額及び支給方法の基本的基準のみを定め,その具体的な決定を当該普通地方公共団体の規則又は長に委任することも,地方自治法203条及び204条の2の各規定の許容するところであって,本件改正後の給与条例は,臨時的任用職員に対する期末手当相当分の賃金(本件一時金)の支給対象者及び支給額を規則において定めるものとすることによりその支給根拠を明確にしているから,給与条例主義に違反しない適法なものというべきである旨主張する。
確かに,前記2において説示したとおり,国家公務員の一般職(前記のとおり,同法にいう一般職は地方公務員法にいう一般職とは異なるものであって,国家公務員法にいう一般職の職は地方公務員法にいう一般職の職よりも相当広範囲に及んでいる。)に属する非常勤の職員に対する給与については,給与法22条において,そのうち委員,顧問若しくは参与の職にある者又は人事院の指定するこれらに準ずる職にある者と,これら以外の非常勤の職員とで,その職務及び勤務の性格の違いに応じて異なった仕組みが採用されており,前者については,勤務1日につき法定額を超えない範囲内において各庁の長が人事院の承認を得て手当を支給することができるものとされ(同条1項),後者については,これらの非常勤の職員の雇用及び勤務の実態が区々であり,実際問題としてあらかじめ法律等により具体的な基準までを詳細に定め難い事情にあることにかんがみ,給与法においては「常勤の職員の給与との権衡を考慮し」という基本的基準のみが規定され,各庁の長が「常勤の職員の給与との権衡を考慮し」て予算の範囲内で給与を支給するものとされている(同条2項)。しかるところ,普通地方公共団体の非常勤の職員は,議会の議員その他の法定の一定範囲の者を除くと,給与法22条2項所定の常勤を要しない職員と同様に,その採用の形態,職務内容,勤務態様は多種多様で,性質上一律的な規律になじまないと考えられることに加えて,普通地方公共団体の非常勤の職員に関する地方公務員法及び地方自治法その他関係法令の規定からすれば,普通地方公共団体の非常勤の職員の制度は,一般職に属する常勤の職員を中核とする人的体制を補完するものとしてその時々の行政需要に柔軟に対処するための制度として位置付けられている面がうかがわれないではない。また,地方公務員法22条2項又は5項の臨時的任用職員についても,これを行うことができるのは,原則として,緊急の場合,すなわち,地方公務員法17条所定の任用の手続をとるいとまがなく緊急に職員を任用する必要がある場合と,臨時の職に関する場合,すなわち,当該職自体の存続期間が暫定的なものである場合とに限定されているのであって,これらにかんがみても,被告の主張するとおり,普通地方公共団体の臨時的任用職員の制度は,非常勤の職員の制度と並んで,一般職に属する常勤の職員を中核とする人的体制を補完するものとしてその時々の行政需要に柔軟に対処するための制度として位置付けられている面がうかがわれるところである(以上は,臨時又は非常勤の職については条例で定数を定めることを要しないものとする地方自治法172条3項等の規定の趣旨からも裏付けられるところである。)。このように,普通地方公共団体の非常勤の職員ないし臨時的任用職員と常勤の職員とはその制度上,性質上大きな差異が存在することは否定し得ないところである。そして,これらにかんがみると,地方自治法等の定める給与条例主義の解釈適用に当たっても,常勤の職員と非常勤の職員ないし臨時的任用職員のこのような制度上,性質上の差異をしんしゃくせざるを得ず,このことは地方自治法等の予定するところであり,普通地方公共団体の非常勤の職員ないし臨時的任用職員に対する給与については,給与法22条2項の規定の趣旨に準じて,条例において報酬等の額及び支給方法についての基本的基準のみを定め,その具体的な決定を当該普通地方公共団体の長又は規則に委任することも,普通地方公共団体の職員に対する給与の支給に対する民主的統制を図るという給与条例主義の趣旨を没却するものではなく,地方自治法203条ないし204条の2の各規定の許容するところであると解することも考えられないではない。しかしながら,前記2において説示したところによれば,国家公務員の一般職に属する非常勤の職員に対する給与の支給については,昭和25年法律第299号による改正後の給与法22条において,委員,顧問若しくは参与の職にある者又は人事院の指定するこれらに準ずる職にある者以外の常勤を要しない職員については,各庁の長は,常勤の職員の給与との権衡を考慮し,予算の範囲内で,給与を支給する旨規定されて,法においては基本的基準を示すのみにとどめ,具体的な給与の決定は予算の範囲内で各庁の長の裁量にゆだねる仕組みが採用されていたにもかかわらず,上記給与法の改正がされた後も,普通地方公共団体の非常勤の職員に対する給与について地方自治法及び地方公務員法において上記改正後の給与法の非常勤の職員に対する給与の規定に準じた規定は設けられず,昭和31年法律第147号による地方自治法の一部改正(昭和31年改正)において,普通地方公共団体の常勤の職員に係る給与体系と非常勤の職員に係る給与体系とを異なるものとして規定した上,非常勤の職員の給与についても常勤の職員の給与についても,「報酬,費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は,条例でこれを定めなければならない。」(地方自治法203条5項),「給料,手当及び旅費の額並びにその支給方法は,条例でこれを定めなければならない。」(同法204条3項)と規定するとともに,「普通地方公共団体は,いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基く条例に基かずには,これを第203条第1項の職員及び前条第1項の職員に支給することができない。」(同法204条の2)と規定し,これがそのままの形で現行法に受け継がれている経過が明らかであって,このような関係規定の沿革等にかんがみると,昭和31年改正においては,普通地方公共団体の非常勤の職員に対する給与の支給について,国家公務員の一般職に属する非常勤の職員に対する給与について給与法(ただし,昭和25年法律第299号による改正後のもの。)が採用した仕組みとは異なる立法政策が採られたものと理解せざるを得ない。
のみならず,国家公務員法60条の臨時的任用については,任用の要件について地方公務員法22条と同じ要件を規定しながら,給与法は,臨時的任用職員の給与について非常勤職員に関する22条の規定に相当又は類似するような特別規定を置いていない(なお,前記のとおり,国家公務員法60条の臨時的任用は,常勤官職について行うことが予定され,人事院規則12−8においてその旨の定めがされているところである。)。
以上のような国家公務員及び地方公務員の給与に関する関係規定の沿革等に加えて地方自治法及び地方公務員法の給与に関する関係規定の文理に照らしても,普通地方公共団体の職員に対する給与その他の給付の支給についてのいわゆる給与条例主義を定めた関係規定(地方自治法203条5項,204条3項,204条の2,地方公務員法25条1項等)について,給与法(ただし,昭和25年法律第299号による改正後のもの。)22条2項の規定の趣旨をしんしゃくした前記のような解釈をすることは困難というべきである。
のみならず,前記のとおり,給与条例主義を定めた地方自治法等の関係規定には,普通地方公共団体の職員に対する給与の支給に対する民主的統制を図るという趣旨に加えて,普通地方公共団体の職員に対して法定の種類の給与を権利として保障するという趣旨が含まれているところ,条例において給料,報酬,手当等の額について何ら定めずにその決定を普通地方公共団体の長又は規則にゆだねたり,又はその額の最高限度(上限)のみを定め,その範囲内で個々の非常勤の職員の報酬等の具体的な額を決定することを普通地方公共団体の長又は規則にゆだねたりするなど,条例において報酬等の額等についての基本的基準のみを定め,その具体的な決定を広く当該普通地方公共団体の長の裁量的判断にゆだねることは,給与条例主義に含まれる上記趣旨にも抵触するものといわざるを得ない。
前記のとおり,本件改正後の給与条例36条2項は,期末手当相当分の賃金(本件一時金)の支給金額についてはその上限すら規定せずにその決定を規則の定めにゆだねており,支給金額を決定するための具体的基準を給与条例の関係規定から読み取ることもできないのであるから,給与条例36条2項の規定は,地方自治法204条3項,204条の2,地方公務員法25条1項等の規定に違反し,違法というほかない(なお,前記前提事実によれば,茨木市においては,少なくとも過去10年以上前から,臨時的任用職員のうち1週間当たり3日以上勤務する者で6月15日及び12月1日の各基準日にそれぞれ2か月以上在職し,かつ,支給日現在において在職する者に対し,基準日が6月15日であるものについては4万円,基準日が12月1日であるものについては4万5000円を一律に支給してきたというのであり,これが本件改正後に臨時的任用職員規則13条として規定されているところからすれば,少なくとも同規則13条の内容を条例において規定することに特段の支障は見いだし難い。)。
以上のとおりであるから,仮に平成16年度の本件一時金の支給対象者のうちに地方自治法204条1項にいう常勤の職員に該当する者が含まれていたとしても,これらの者に対する当該本件一時金の支給が給与条例36条2項及び本件改正条例附則4項の規定によりさかのぼって適法なものとなったということもできない。
(4) 以上のとおり,平成16年度の本件一時金の支給は給与条例36条2項及び本件改正条例附則4項の規定によってその支給時にさかのぼって適法なものとなったということもできないというべきである。
6 本件一時金の支給による茨木市の損害の有無(争点D)
(1) 前記のとおり,平成16年度の本件一時金の支給は地方自治法203条ないし204条の2及び地方公務員法25条1項等の規定に違反し違法であり,給与条例36条2項及び本件改正条例附則4項の規定によってその支給時にさかのぼって適法なものとなったということもできないから,茨木市は,上記違法な本件一時金の支給により,支給額相当額の損害を被ったというべきである。前記前提事実によれば,平成16年度の本件一時金は平成16年6月30日に761人の臨時的任用職員に対し合計3044万円,同年12月10日に810人の臨時的任用職員に対し3645万円がそれぞれ支給されたというのであるから,茨木市は,上記本件一時金の支給により,合計6689万円の損害を被ったというべきである。
(2) 被告は,本件一時金の支給が違法であったとしても,その支給の結果茨木市に損害が生じたといえるか否かは,本来されるべきではない一時金の支給がされたという点のみならず,本件一時金の支給を受けた臨時的任用職員の行った業務内容との関係で本件一時金の支給が相当な対価関係にあると認められるか否かという観点から検討すべきであるところ,茨木市においては,臨時的任用職員が存在しなければ住民に対する円滑な行政サービスの提供は不可能であって,臨時的任用職員を採用する必要性が存することに加えて,茨木市の臨時的任用職員は,その賃金自体が低額である上,本件一時金の額も低額であることからすれば,臨時的任用職員の業務は比較的低廉な対価でされていたということができるのであって,臨時的任用職員に対し通常の賃金に加えて年2回の一時金(本件一時金)を支給して初めてその勤務の対価として相当な額になるということができるから,仮に本件一時金の支給が違法であったとしても,臨時的任用職員に対してされた給付全体を見れば,従事した業務と相当な対価関係(むしろ低廉な対価関係である。)にあるということができる上,本件一時金の支給は人材の有効活用に結びつくものでもあるから,その支給によって茨木市には何ら損害は発生していないというべきであるなどと主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件一時金は,臨時的任用職員に対してその勤務日数等に応じて支給される日給又は時間給の賃金(いわゆる本給)とは別に期末手当相当分として支給される給与であるところ,そもそも,期末手当は,純然たる勤務に対する反対給付としての性格のみを有するいわゆる本給とは異なり,我が国の生活習慣上盛夏と年末に生活費が一時的に増嵩することを考慮して支給される生活給としての性格を有するものであり,臨時的任用職員の勤務に対する対価は,勤務日数等に応じて日給又は時間給により支給される賃金(本給)によって評価し尽くされているというべきであるから,被告が主張するように臨時的任用職員の日給又は時間給による賃金(本給)が正規の常勤の職員の給与はもとより北大阪地域における民間企業アルバイト職員の給与等と比較しても低い水準に設定され,本件一時金の支給にこれを補完する趣旨が含まれていたとしても,臨時的任用職員の勤務によって当然に茨木市に本件一時金の支給額相当の利得が生じていたということはできない。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものというべきである。
のみならず,地方自治法204条の2によれば,普通地方公共団体の常勤の職員及び非常勤の職員に対しその勤務の対価を反対給付として支給するためには,法律又はこれに基づく条例に基づかなければならないのであり,その趣旨からすれば,違法な本件一時金の支給により茨木市が被った損害額を算定するに当たり,その支給の対象とされた臨時的任用職員の提供した勤務の対価を金銭的に評価してこれを損益相殺等することは,同条の規定の趣旨を没却するものとして,許されないと解すべきである。
以上のとおりであるから,被告の上記主張を採用することはできない。
7 本件一時金の違法な支給についてのc及びbの故意又は過失の有無(争点E)
(1) 前記前提事実によれば,平成16年度の本件一時金の支給については,平成16年6月9日及び同年11月29日に市長決裁が行われ,その支給時(同年6月30日及び同年12月10日)にそれぞれの金額に応じた専決権者の専決により支出命令がされたというのであるから,上記支給についてはその当時茨木市長としてこれを行う権限を本来的に有していたbの過失の有無を検討すべきである。
(2) 前記のとおり,平成16年度の本件一時金の支給は,旧給与条例36条の規則への包括的な委任規定しかその根拠となる規定を見いだせない状況の下において,当該委任規定に基づく規則すら制定されないまま,任命権者である市長の決定(裁量)によって行われていたものであって,およそ条例の根拠を欠くものといわざるを得ないから,地方自治法204条3項,204条の2,地方公務員法25条1項等の規定(給与条例主義)に違反することが明らかであり,これを適法と解する余地はなく,給与条例主義の趣旨を没却する程度も甚だしいというべきである。そうであるとすれば,bは,本件一時金の支給が条例の根拠を欠く違法なものであることを容易に知り得たというべであり,それにもかかわらず,自ら平成16年度の本件一時金の支給について決裁し,その支給を阻止しなかったのであるから,bは,市長として尽くすべき注意義務を怠った過失があるといわざるを得ない。
(3) 被告は,大阪府及び同府内の各市において臨時的任用職員等の給与等を条例で規定していないものが大半である現状の下で本件一時金の支給が給与条例主義に違反するとの認識を持つことは困難であったところ,臨時的任用職員に対する本件一時金の支給が開始された昭和56年ころから平成17年度までの間に,原告らによる本件監査請求以外にその支給が違法である旨の指摘がされたことはなかったのみならず,本件一時金の支給は,その根拠法規として旧給与条例や本件内規が存在し,これらに基づく所定の手続を履践していたのであり,bが茨木市の市長に就任した平成16年当時においては,過去25年近くにわたり本件一時金の支給が行われていたのであるから,bにおいて本件一時金の支給に関する規定が給与条例主義に違反するおそれがあることを容易に知り得たということはできないなどと主張する。
確かに,b24及び弁論の全趣旨によれば,平成19年4月25日現在において,大阪府及び同府内の33市(合計34団体)のうち臨時的任用職員の給与について条例にその具体的な金額を定めているものはなく,具体的な金額の決定を規則に委任しているものは3団体,具体的な金額の決定を任命権者に委任しているものが7団体,条例に何らの規定を置いていないものが24団体である事実が認められる。
また,昭和36年5月5日自治丁公発第47号高知県総務部長あて公務員課長回答「臨時職員の給与の取り扱いについて」において,一般職の職員の給与に関する条例中に「臨時職員の給与については,この条例の規定にかかわらず予算の範囲内で任命権者が別に定める」と規定するのは,地方公務員法24条6項の規定に違反するか否か等の照会に対し,「地方公務員法第22条の規定に基づく臨時的任用職員の給与については,他の職員と同様に給与に関する条例を適用すべきものであるが,同条例中に特別の定をして差支えないものと解する。」とされていることは,前記2(5)エのとおりである。
しかしながら,前記のとおり,本件改正前においては本件一時金の支給はおよそ条例の根拠を欠いていたものであるところ,臨時的任用職員の手当を含む給与についてはおよそ地方自治法及び地方公務員法の規定する給与条例主義が適用されず任命権者の裁量によりこれを決定することができる旨の解釈は,関係規定の文理からしても到底困難というほかない。また,前記2(5)ウのとおり,昭和27年11月18日自行公発第96号函館市人事委員会委員長あて公務員課長回答「条例制定事項について」は,職員の給与,勤務時間その他の勤務条件に関する事項を全面的に規則で定めるよう条例で委任することはできないものと解するとし,昭和54年8月31日自治給第31号各都道府県知事,各指定都市市長あて行政局公務員部長通知「違法な給与の支給等の是正について」は,「条例において単に給与の支給根拠のみを定め,具体的な額,支給要件等の基本的事項をすべて長又は規則に委任するようなことは給与条例主義の趣旨に反するものであり,その内容は条例に明確に定めること。」としているのであって,これらの行政解釈にも照らすと,上記「臨時職員の給与の取り扱いについて」における回答についても,臨時的任用職員の給与について予算の範囲内で任命権者がその裁量により決定することを是認する趣旨の行政解釈を示したものとは解し難い。のみならず,乙23及び弁論の全趣旨によれば,上記「違法な給与の支給等の是正について」の通知は,市町村のいわゆるやみ給与問題が続発し住民の批判を浴びている事態を受けて発出されたもので(乙23の10),「なお,貴管下市町村にもこの旨示達されるとともに特に最近の事例に鑑み市町村において違法な給与の支給等が行われることのないよう適切なご指導をお願いする。」としているところでもある。
そうであるとすれば,上記昭和36年5月5日「臨時職員の給与の取り扱いについて」における照会回答が存在し,大阪府及び同府内の各市の大半が臨時的任用職員等の給与について条例に何らの規定を置いていないのが実情であることに加えて,臨時的任用職員に対する本件一時金の支給が条例の根拠を欠いたまま昭和56年ころから継続して行われ,その間,原告らによる本件監査請求以外にその支給が違法である旨の指摘がされたことがなかった様子がうかがわれることをしんしゃくしてもなお,これらの事情をもって本件一時金の支給を阻止しなかったbの過失を否定する根拠とするに足りないものというべきである。
また,被告は,bは,旧給与条例に基づいて本件一時金の支給を行ってきたのであるから,同人に本件一時金の支給について過失が存在したということができるためには,同人において,本件一時金の支給に際して旧給与条例及び本件内規を改正し,本件一時金の支給を廃止すべきであったにもかかわらず,これをしなかったということを要し,そのためには,同人が市長就任後直ちに条例等の法規やその運用状況について問題視されていると否とを問わずその一切を懐疑的に検証しそれぞれの法規ないし運用に内包される問題点を洗い出さなければならなかったといえることが前提となるところ,そのような行為が行われなかったことをもって同人の過失と認めることは,市長の職務内容の実態を無視した不可能を要求するものに等しく,妥当ではないなどと主張する。
しかしながら,前記のとおり,そもそも,旧給与条例は臨時的任用職員の給与に関する明示の規定を欠いており,その36条において「この条例に定めるものの外,必要な事項は規則で定める。」と規定していたにすぎないから,茨木市長としては,旧給与条例を改正するまでもなく,本件一時金の支給を阻止すれば足りたのであり,この点において,被告の上記主張は一部その前提を欠くものというべきである。のみならず,市長は,普通地方公共団体の執行機関として,当該普通地方公共団体の条例,予算その他の議会の議決に基づく事務及び法令,規則その他の規程に基づく事務を自らの判断と責任において誠実に管理し執行する義務を負うものである(地方自治法138条の2)ところ,本件一時金の支給は,条例の根拠はもとより,規則の根拠をも欠くものであるから,上記の規定に照らしても,被告の主張するような事情をもって本件一時金の支給を阻止しなかったbの過失を否定する根拠とする余地はないというべきであり,被告の上記主張を採用することはできない。
(4) 以上検討したところによれば,bは,茨木市に対し,不法行為に基づく損害賠償として,平成16年度の本件一時金の支給額に相当する6689万円及びこれに対する遅延損害金を支払う義務を負うというべきである。
したがって,平成16年度の本件一時金の支給に係る原告らの被告に対する本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,被告にbに対し6689万円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求をすることを求める限度で理由があり,その余の請求は理由がない。
8 結論
以上によれば,本件訴えのうち茨木市の臨時的任用職員に対する平成7年度から平成15年度までの本件一時金の支給に係る部分は,不適法であるから,これを却下し,原告らのその余の請求は,被告にbに対し6689万円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求をすることを求める限度で理由があるからこれを認容し,原告らのその余の請求は,理由がないから,これを棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。